清く正しく美しく
食後のひと時
理玖と作った夜ご飯をダイニングテーブルに並べて食べた。
大学生になってから、お店のテーブルで向かい合って食べることが当たり前になっていたけれど、理玖の部屋で一緒に作った料理を食べるのは、いつもと違って新鮮で。くすぐったくて、気持ちがふわふわする。
他愛のない話をしながら舌鼓を打って、食べ終わった後はキッチンに並んでお皿を洗った。
「琴葉さん、後ろ向いて」
「あ、はい」
後ろを振り向くと、理玖が琴葉の背後に近づいてきた。
さっきみたいに――抱きしめられるのかと思って、どきんと心臓が鳴る。
期待したけれど理玖の温もりが触れることはなく、エプロンのリボンを解き、脱がせてくれた。
「ありがとうございます」
拍子抜けしつつお礼を言うと、理玖が優しく笑った。
「紅茶淹れるからソファで座って待ってて」
「手伝いますよ」
「にんじんしりしり?のお礼だから座ってて」
「・・・・・・分かりました。ありがとうございます」
「うん」
琴葉がリビングにあるソファに座ると、理玖はキッチンでお湯を沸かしていた。
座り心地の良いソファに身を傾けてぼんやりしていると、ふとここであったことが頭を駆け巡った。
――私、この前ここで、月島くんと・・・・・・!
頭を優しく撫でる大きな手。琴葉がすっぽり収まってしまう身体。爽やかな香りと温もり。
優しく押し倒されて、少し苦しくなるくらい深い口づけを交わした。
思い出した途端、身体の奥が一気に熱くなった。
「お待たせ」
気持ちを落ち着けようと必死に思い出さないようにしていたのに、理玖に声をかけられて、びくりと肩が跳ねた。
理玖は持ってきた二つのマグカップの片方を琴葉の前に置き、もう片方を琴葉のものから少し離れたところに置く。
「・・・・・・ありがとうございます」
「うん」
人ひとり分、間を空けて隣に腰掛けた理玖の顔を見られない。
理玖から見えないように顔を伏せ気味にしていると、隣からくすりと笑う声が聞こえた。
――月島くんは私があの夜のことを意識していると分かってる気がする
そう思った瞬間、恥ずかしさがこみ上げて、余計に身体が熱くなってきた。
「映画でも見ようか」
「へっ!?あ、はい」
「ふふ、どんなやつが見たい?」
理玖がリモコンを操作しながら、何気ない口調で尋ねてきた。何か答えなくてはと思うのに、上手く頭が回らなくて、言葉が、なかなか出てこない。
「・・・・・・月島くんのおすすめのものを見てみたいです」
結局、理玖に委ねるような言葉になってしまった。
「おすすめか。何だろう」
琴葉の返答を聞いた理玖は、呟いてから考え込んでいた。サブスクリプションで邦画のランキングを見ながら、「う~ん」と時折零している。
「じゃあこれにしようかな。去年話題になってたから」
「アカデミー賞にノミネートされてましたね」
「そうそう」
理玖の選んだ映画が再生される。
それは、主人公が離婚届を出す当日に事故で夫を亡くし、その運命を変えようと奮闘する物語だった。
はじめのうちは隣に座る理玖を意識しすぎてあまり集中できなかった。テレビの方を向きながら、視線が落ち着かない。右往左往して、視界の端に理玖の手や膝が映る。
膝の上で手を組んでいる自分の手を見つめてから、そっと横目で理玖の様子を窺うと、テレビを真っ直ぐに見つめていた。
――何を考えているんだろう。
その答えを知るには、琴葉も映画を集中して見なければならない。終わった後に感想を言い合うためにも集中しなければ。
琴葉も理玖に倣ってテレビの画面を真っ直ぐに見つめた。ここであったことを思い出しそうになるたびに必死に煩悩を頭から追い出す。
何度かそうしていたら、いつの間にか映画の世界に引き込まれていった。