今日、愛する妻が死にました。

 受験シーズンが来ると、あけみは圭吾と同じ予備校に通った。
 片時も離れずに、そばに寄り添った。
 影に隠れて、ずっとーーー。

「.....山本くん?」

「......え?」

「初めまして。私、久能のぞみ(くのう のぞみ)。隣、いいかな?」


 .....ねぇ、あなた誰?
 ......どうして『私だけの』山本くんに話しかけてるの?




*****

 やがて冬が来て、受験シーズン本番。


「.....あの。山本、くん?」

「あ....久能さん。はよ。....君も、先生に報告?」

「おはよう!うん!.....山本くんも?」

「あぁ。合格したんだ」

「私も!ふふ、ホッとしちゃった。おめでとう」

「だよな~。もうずっと生きた心地しなかったもん。久能さんも、おめでとう」

「あ、ありが、と。あの.....もし、良かったら、この後お祝いでもしない?.....あ、えっと....もし嫌じゃなければ、二人で.....とか」


 ......ねぇ、どうしてあなたが、それを言うの?
 ......私の、山本くんに。
 .......彼は、『私だけの』山本くんなのに。


*******


「ふふ、嬉しい。本当に、現実だよね?....私、山本くんの『彼女』になったんだよね?」

「.....なんだよ、可愛いな。当たり前だろ。.....の、のぞみ.....は、僕の『彼女』。これから宜しくな」

「.....うん、宜しくね。.....圭吾。大好き」

「僕も.....大好きだよ....のぞみ」


 ......どうして?
 ......山本、くん....どうして、他の子の名前を呼ぶの?
 ......あなたは『私だけ』の山本くん、でしょ?
 .......どうして、そんな子に....キスするの?


******

 圭吾とのぞみの部屋が決まれば、あけみも同じく家を出て、上京。
 のぞみとは、反対側の.....圭吾の『お隣』の部屋を契約した。


「本当!?じゃ、私たち、これからお隣さん、なんだね」

「はは、めっちゃ喜ぶんだな。そう、大学も近いし。家もちょうど隣同士が空いてたから、お隣さん。仲良くしてくれな」

「もう。ふざけちゃって。ふふっ、大学生活、すっごい楽しみになってきた」

「可愛い。....僕も楽しみだ。嬉しいよ、のぞみの近くにいられて」

 .....ねぇ、山本くん。
 .....大丈夫。私もそばに居るからね。
 ......そんな子、そのうち『いなくなる』から。

 ......私も、これからあなたの『お隣さん』よ。
 ......ずっと、ずーっと.....一緒だよ。


*******

「.....結婚しよう、のぞみ。ずっと僕のそばにいて」

「.....ぐすっ。は、はいっ......もちろん、だよ。ずっと一緒に居よう、圭吾...」

 ......えぇ...嬉しい、『圭吾』。
 ......やっとプロポーズしてくれたね。古い『のぞみ』に。

 ......見て?私、痩せたでしょ?
 ......髪型も。服装も。仕草も。その子にそっくり、でしょ?

 ......あとは.....少しだけ待っててね。
 .......もうすぐ、完璧に『のぞみ』になるから。
 .......少し痛いのくらい、平気。顔まで、『のぞみ』になったら、ね?

 ......そうしたら、あなたはやっと『私だけの』圭吾、よね?


 あぁ、でもーーー。
 顔を作り変える前に、結婚式には出ておかないと。
 大丈夫よ。私には、鍵があるもの。
 
 少しの間、圭吾が失くしてくれた家の鍵。
 その時に、合鍵、作っておいたもの。

 あなたたちが居ない間に、書き加えておくね。
 だって、見ておかなくちゃ。
 圭吾と古い『のぞみ』の結婚式。
 将来、圭吾と......新しい『のぞみ』の思い出になる結婚式。



*******

「うわぁ、ここがこれから私たち『家族』の家になるんだね。これだけ部屋があったら、将来子供ができても安心だね!」

「あぁ。のぞみとの子供、可愛いだろうな」

「ふふ、もう...圭吾ったら。気が早いんだから」

「楽しみなんだ。ここで新しく始まる俺たちの生活が」

「...圭吾。....私も」


 ......素敵。ここが、もうすぐ圭吾と....新しい『のぞみ』の家になるのね。

 ......圭吾と私...『夫婦だけ』の家になるのね。

 .......また、圭吾に失くしてもらわなきゃ。
 .......合鍵、作っておかなくちゃ。

 ........今はまだ、私たち『三人の』家の鍵。


********


「あなた....誰?」

「私?....私は、あなた。『のぞみ』だよ」

「.....な、に言ってるの?.....それに、あなた....その顔、まるで.....」

「うふふ....そっくりでしょ?あなたに。.....お医者様にね、あなたの写真を見せて、作り直してもらったの。私の....新しい顔よ?.....これで、完璧に『のぞみ』だわ。圭吾の愛する....『のぞみ』になれるわ」

「.........」

「........ふふふ。は、はははっ。何、震えてるの?....大丈夫、怖がらないで。これからは私が....新しい『のぞみ』が.....愛する圭吾を支えるから。だから.....安らかに眠って、ね?.....なるべく、痛くないようにしてあげる....ね?」

「....っ、い、いやっ!こ、こない、でっ....やめっ、うぅ~~~......」

 ガシャーンッ!....バタバタっ....バタ......パタッ。

「ふふ、さようなら。.....これで、新しい『のぞみ』よ。.....圭吾、やっと.....ずっと、ずーっと一緒に居られるね」

 古い『のぞみ』は海に捨てた。
 これで、きっと見つからない。バレないわよね。

******

 それから、『のぞみ』は今まで通り生活した。
 新しい自分になったのだから、ずっと書いてた日記も新しくした。
 『あけみ』だった私は、ちぎって燃やした。

 圭吾と古い『のぞみ』の出会いからのページを残して。

 古い『のぞみ』の時も、私はずっとそばに寄り添って、一部始終を書き残しておいたんだから。
 あれは、古い『のぞみ』の思い出じゃないわ。

 あれは....もう私のもの。新しい『のぞみ』と古い『のぞみ』が一体になった記録なんだから。

 あぁ....子供の頃のノートは消しておかなきゃ。あんな、誰にも愛されなかった小さなあけみの日記なんて、塗り潰しちゃおう。あんなノート、もういらない。


******

 新しい『のぞみ』になった時、圭吾は大切な仕事で出張中だったから、やっと昨日会うことができた。

 大丈夫。全然気づかれていない。

 でも.....。

 声を出したら、危ないかしら。
 なるべく声を似せて話すけど....万能じゃないもの。

*****

 あら....またかかってきた。
 古い『のぞみ』の時の、友人。

 うっとうしいわね....もう私は新しい『のぞみ』なの。

 そうだ。.....無視しましょう。
 あなたたちなんて、いらないわ。

 私には、愛する圭吾がいるんだから。


******

 子供?.....子供なんて、いらない。
 圭吾は、『私だけ』の圭吾。
 子供になんて、わけてあげない。
 
 

*******


 そして、『のぞみ』は、がんが見つかって余命宣告された。

 バチが当たったのだろうか。
 きっと、他人の人生をとったりしたから、神様が怒ったのかもしれない。

 それでもねーーー。


 私、幸せだったよ。圭吾。

 誰にも愛されなかった『あけみ』の頃の自分より。

 あなたが『のぞみ』だと思い込んで、愛してくれた時間の方が、何千倍も幸せだった。


 私はーーー。

 今日、圭吾の『愛する妻』として.....死んでいきます。


【完】




******


※ この作品はフィクションです。実際の人物とは一切関係ありません。
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