偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜
プロローグ
私は今、遊園地のお化け屋敷にいる。
外のギラギラした太陽が嘘みたいに、中は身震いするほど冷たい空気に満ちていた。
実は、今の私の顔は「私」じゃない。メイクで別人になっている。
カラーコンタクトで瞳の色を変え、ノーズシャドウで鼻筋を高く見せて、頬骨のラインを変えた。
鏡を見ても自分だと気づかないくらい、完璧なお嬢様になりきっている。
だけど、見た目を変えたからって、中身まで強くなれるわけじゃない。
足元から響く不気味な音に、心臓がじわじわと縮んでいく。
いくら変装をしていても、怖いものは、やっぱり怖い。
そのとき、暗闇の奥から不気味な叫び声とともに、何かが飛び出してきた。
「きゃあ!」
気づいたときには、隣に立っている男の子の腕を、両手でぎゅっと掴んでいた。
「大丈夫?」
すぐそばで、落ち着いた声がした。
おそるおそる顔を上げると、薄暗い青色のライトの中に、ため息が出るほどきれいな横顔があった。
涼しげな目元に、すっと通った鼻筋。
この人は、私の名前も、本当の顔も知らない。私のことを、お嬢様の『如月真白』だと思いこんでいる。
心臓がドクドクとうるさい。
……これが、お化け屋敷のせいだけじゃないことくらい、自分でもわかっていた。
「す、すみません……っ」
慌てて腕を離すと、彼はかすかに微笑んだ。
「俺も、ちょっとびっくりしましたよ」
──この子はまだ知らない。
私がただの地味な中学生だということも、この恋が、最初から「嘘」の上に成り立っていることも。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう……。
あの日の放課後。演劇部の部室に本物の真白さんが飛び込んでくるまでは、私の毎日はごく普通だった。
少なくとも、私はそう思っていた。