偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜
「こんなにすごいのに! 陽葵の腕前、あたしが世界中に自慢してあげたいくらいだよ。もったいなーい」
咲季は、目ざとくて観察眼も鋭い。それが長所でもあるんだけど、こういうときは少し困る。
「いいの。裏方は、目立っちゃいけないから」
私がそう言い切ると、咲季は渋い顔をしながらもスマホをポケットに突っ込んだ。
「……そういえば」
咲季が思い出したように、声を潜めて私の耳元に顔を寄せてくる。ふわりと、海外の石鹸のような、上品で甘い香りがした。
「最近、あのお嬢様の如月真白さんが、腕の良いメイク担当を探してるって噂、聞いたことある?」
「如月さんが? どうして?」
「さあね。あの子のお眼鏡に適う人なんて、この学園には陽葵くらいしかいないと思うけど」
このときの私は、「へえ、そうなんだ」と聞き流していた。
如月真白さんのことは、同じクラスだから当然知っている。
けれど、「知っている」というよりも「遠くから見ていた」という表現のほうが正しいかもしれない。
廊下を歩けば自然と人の視線が集まり、授業中に先生に指名されればすらすらと答える。
栗色のサラサラの長い髪が、動くたびにさらりと揺れる。
誰もが認める、学園のお嬢様。それがクラス全員の共通認識だった。
メイクの腕前を認めてくれる、先輩や友達はいる。
でも、如月真白さんのような存在とは、きっとこれから先も交わることはないだろう──そう思っていた。