京本さんはいつも私を困らせる
episode12
「はぁ!」
なんとか京本さんから離れてお風呂に来た。1人風呂さいこー!.....って、なんで外にお風呂あるの?!京本さんの家には、いわゆる露天風呂というものがある。風呂場とは呼べないほどの広さの浴場に、何種類ものお風呂。これが実家って、信じられない。
「よし」
周りに誰もいないことを確認した。すぐに露天風呂の端っこに行き、思い切り背泳ぎをした。
「さいこー!」
誰もいない温泉でできることといえば、泳ぐことしか思いつかない。1人だし、自分だけの秘密。
小さい頃から泳ぎは得意だったからお手のもの。
背泳ぎをしながら、しばらく浮かんだ。
「きれい...」
さっき見たばかりだけど、やっぱり快晴の星空は別格だった。
“健康第一で暮らせますように。あと.....”
目を瞑り、心の中で願い事を呟いた。
「お風呂上がりましたー」
30分ほど湯船に浸かり、京本さんのいる部屋についた。
お風呂場からここまで遠くって、何度も奥様に聞いちゃった。だってこの家、旅館みたいに入り組んでるんだもん。
「お疲れさま」
部屋に入ると、布団の上で読書をしている京本さんが目に入った。普段とは違う和風の寝巻き姿が本当に可愛い。
「読書ですか?」
「うん。最近読んでる本なんだけど、なかなか面白くてね」
「そうなんですね。そういえば、これ、和枝さんのものを借りたんです。変じゃ、ないですか?」
今日いきなり泊まることになったから、もちろん寝巻きは持ってきてない。だから一晩だけ奥様のものを借りることにした。
服の布を広げながら京本さんに見せると、少しだけ目を配らせて、”かわいいよ”と、言ってきた。
なんだか、様子が変?いつもだったら抱きついてくれるのに.....って私、訳わからないこと考えちゃってた。京本さんは読書に夢中になってるだけ。うん。私が求めることはない。
布団は隣同士、2つ並べられていた。きっと和枝さんがやってくれた。明日お礼を言おっと。
「どんな本なんですか?」
京本さんの隣の布団の上に座り、京本さんを見下ろした。
「大正時代の2人の夫婦の話なんだけど.....って、凛ちゃん髪乾かした?」
そう言いながら髪を触ってきた。
「乾かしたかったんですけど、ドライヤーの場所が分からなくて。1日くらいいいかなーって」
すると京本さんは本に付箋を挟んで閉じた。
勢いよく立ち上がり、どこかに行ってしまった。
え?私、何か変なこと言った?読書の邪魔したのがいけなかったのかな?どうしよう.....
「———持ってきたよ」
「え?!」
京本さんは怒ってどこかに行くなんて、そんなことしないって分かってた。ドライヤーを手に持って部屋に戻ってきてくれた。
「いいんですか?」
「どーぞ。ここ、座ってください」
さらに京本さんのベッドに触るよう促してきた。
「し、失礼しまーす」
正座をすると、京本さんの足に挟まれながらドライヤーの音がした。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。凛ちゃんは髪の毛長いんだから、きちんと乾かさないと」
「そうですよね。でも、最近めんどくさくて自然乾燥のときもあるし」
「ダメダメ!年上としての助言じゃないけど、俺が学生の時髪の毛一週間自然乾燥でいったら、チリヂリになったよ」
「やばいですね。でも、京本さんが、チリヂリ...?」
「ツッコむところそこ?」
私は笑いながら京本さんに寄りかかった。
「まだ乾かしてる途中なんですけどー。くっつくのはあとでにしてくださーい」
肩を押されて押し返された。小さく悲しい返事をした。
京本さんに髪を乾かしてもらってる間、あることを思い出した。
『俺が結婚しようと思っている女性です』
あの言葉の真意って、なんだったんだろう。本当に思ってたことなのかな。旦那様は家内が必要不可欠って言ってたし。
「できた。こっち向いて」
考え事をしている間にドライヤーが終わっていた。呼ばれた通り、京本さんの方に振り向いた。少し前髪をいじられて、肩が浮いた。
「おっけー。かわいい」
「ありがとうございます」
小さくお辞儀をした。京本さんは私を見つめるなり、口角をほんの少し上げて優しく笑った。
「はい」
「なんでしょう?」
「ドライヤー中、くっつけなかったから」
手を広げて、待ってる。
「へへっ!」
勢いよく京本さんの胸に飛びついた。
「凛ちゃん、いい香りする」
鼻を頭にすりすりやられてる。京本さんは身長が高いから、私の体は自然と覆い被されてしまう。
「凛ちゃん」
「はい」
「お願いがあるんだけどさ」
「お願い?私にできることならなんでも」
「実家にいる間だけ、苗字じゃなくて、下の名前で呼んでよ」
え?それって、響、ってこと.....?!
「え?!いや、いきなりそんな名前で呼ぶなんて」
「ここにいる人はみんな京本さんだから。ほら、呼んでみてよ」
京本さんは意地悪そうに笑った。私、試されてる?いやでもそんなことよりお風呂上がりの京本さんのビジュが良すぎて見ていられない!
「ひ、ひ、ひ...ひび、きさん。あーもう!そんなに見つめないでください!」
私は必然的に下を向いた。やっぱり京本さんを下の名前で呼ぶなんて無理!
「ちゃんと言えてないじゃん」
「京本さん、なんか様子変です!普段よりも、悪い人っていうか...?」
「そう?いつも通りだけど」
「.....」
「.....」
目、目が、合ってる。それに、近い!距離が近い。
「も、もう寝ましょうか!明日も朝早いと思いますし!あ、電気消しちゃいますね!」
部屋の電気を消して逃げるように布団の中に潜り込んだ。
京本さんとは何度か寝たことあるけど、こんなにドキドキするのは初めて。
「寝るの早くない?まだ10時だよ」
落ち着いた声。布団がずれる音がした。
「奥様が1人で朝食の準備をするなんて、お邪魔してる身分で失礼極まりないです」
「ははっ」
「なにか、おかしいことでも?」
私は起き上がり京本さんの方を見た。頬杖をつき、静かに笑っていた。
「凛ちゃんは優しいね」
そう言いながら、ずっと左手が触れていた。指先だけ、撫でられるように。
「少し、話したいことがあるんだけどさ」
「はい」
京本さんはゆっくりと起き上がり、私と同じように正座をして正面に座った。
「この家のこと。それと、両親の前で言ったこと」
なんとか京本さんから離れてお風呂に来た。1人風呂さいこー!.....って、なんで外にお風呂あるの?!京本さんの家には、いわゆる露天風呂というものがある。風呂場とは呼べないほどの広さの浴場に、何種類ものお風呂。これが実家って、信じられない。
「よし」
周りに誰もいないことを確認した。すぐに露天風呂の端っこに行き、思い切り背泳ぎをした。
「さいこー!」
誰もいない温泉でできることといえば、泳ぐことしか思いつかない。1人だし、自分だけの秘密。
小さい頃から泳ぎは得意だったからお手のもの。
背泳ぎをしながら、しばらく浮かんだ。
「きれい...」
さっき見たばかりだけど、やっぱり快晴の星空は別格だった。
“健康第一で暮らせますように。あと.....”
目を瞑り、心の中で願い事を呟いた。
「お風呂上がりましたー」
30分ほど湯船に浸かり、京本さんのいる部屋についた。
お風呂場からここまで遠くって、何度も奥様に聞いちゃった。だってこの家、旅館みたいに入り組んでるんだもん。
「お疲れさま」
部屋に入ると、布団の上で読書をしている京本さんが目に入った。普段とは違う和風の寝巻き姿が本当に可愛い。
「読書ですか?」
「うん。最近読んでる本なんだけど、なかなか面白くてね」
「そうなんですね。そういえば、これ、和枝さんのものを借りたんです。変じゃ、ないですか?」
今日いきなり泊まることになったから、もちろん寝巻きは持ってきてない。だから一晩だけ奥様のものを借りることにした。
服の布を広げながら京本さんに見せると、少しだけ目を配らせて、”かわいいよ”と、言ってきた。
なんだか、様子が変?いつもだったら抱きついてくれるのに.....って私、訳わからないこと考えちゃってた。京本さんは読書に夢中になってるだけ。うん。私が求めることはない。
布団は隣同士、2つ並べられていた。きっと和枝さんがやってくれた。明日お礼を言おっと。
「どんな本なんですか?」
京本さんの隣の布団の上に座り、京本さんを見下ろした。
「大正時代の2人の夫婦の話なんだけど.....って、凛ちゃん髪乾かした?」
そう言いながら髪を触ってきた。
「乾かしたかったんですけど、ドライヤーの場所が分からなくて。1日くらいいいかなーって」
すると京本さんは本に付箋を挟んで閉じた。
勢いよく立ち上がり、どこかに行ってしまった。
え?私、何か変なこと言った?読書の邪魔したのがいけなかったのかな?どうしよう.....
「———持ってきたよ」
「え?!」
京本さんは怒ってどこかに行くなんて、そんなことしないって分かってた。ドライヤーを手に持って部屋に戻ってきてくれた。
「いいんですか?」
「どーぞ。ここ、座ってください」
さらに京本さんのベッドに触るよう促してきた。
「し、失礼しまーす」
正座をすると、京本さんの足に挟まれながらドライヤーの音がした。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。凛ちゃんは髪の毛長いんだから、きちんと乾かさないと」
「そうですよね。でも、最近めんどくさくて自然乾燥のときもあるし」
「ダメダメ!年上としての助言じゃないけど、俺が学生の時髪の毛一週間自然乾燥でいったら、チリヂリになったよ」
「やばいですね。でも、京本さんが、チリヂリ...?」
「ツッコむところそこ?」
私は笑いながら京本さんに寄りかかった。
「まだ乾かしてる途中なんですけどー。くっつくのはあとでにしてくださーい」
肩を押されて押し返された。小さく悲しい返事をした。
京本さんに髪を乾かしてもらってる間、あることを思い出した。
『俺が結婚しようと思っている女性です』
あの言葉の真意って、なんだったんだろう。本当に思ってたことなのかな。旦那様は家内が必要不可欠って言ってたし。
「できた。こっち向いて」
考え事をしている間にドライヤーが終わっていた。呼ばれた通り、京本さんの方に振り向いた。少し前髪をいじられて、肩が浮いた。
「おっけー。かわいい」
「ありがとうございます」
小さくお辞儀をした。京本さんは私を見つめるなり、口角をほんの少し上げて優しく笑った。
「はい」
「なんでしょう?」
「ドライヤー中、くっつけなかったから」
手を広げて、待ってる。
「へへっ!」
勢いよく京本さんの胸に飛びついた。
「凛ちゃん、いい香りする」
鼻を頭にすりすりやられてる。京本さんは身長が高いから、私の体は自然と覆い被されてしまう。
「凛ちゃん」
「はい」
「お願いがあるんだけどさ」
「お願い?私にできることならなんでも」
「実家にいる間だけ、苗字じゃなくて、下の名前で呼んでよ」
え?それって、響、ってこと.....?!
「え?!いや、いきなりそんな名前で呼ぶなんて」
「ここにいる人はみんな京本さんだから。ほら、呼んでみてよ」
京本さんは意地悪そうに笑った。私、試されてる?いやでもそんなことよりお風呂上がりの京本さんのビジュが良すぎて見ていられない!
「ひ、ひ、ひ...ひび、きさん。あーもう!そんなに見つめないでください!」
私は必然的に下を向いた。やっぱり京本さんを下の名前で呼ぶなんて無理!
「ちゃんと言えてないじゃん」
「京本さん、なんか様子変です!普段よりも、悪い人っていうか...?」
「そう?いつも通りだけど」
「.....」
「.....」
目、目が、合ってる。それに、近い!距離が近い。
「も、もう寝ましょうか!明日も朝早いと思いますし!あ、電気消しちゃいますね!」
部屋の電気を消して逃げるように布団の中に潜り込んだ。
京本さんとは何度か寝たことあるけど、こんなにドキドキするのは初めて。
「寝るの早くない?まだ10時だよ」
落ち着いた声。布団がずれる音がした。
「奥様が1人で朝食の準備をするなんて、お邪魔してる身分で失礼極まりないです」
「ははっ」
「なにか、おかしいことでも?」
私は起き上がり京本さんの方を見た。頬杖をつき、静かに笑っていた。
「凛ちゃんは優しいね」
そう言いながら、ずっと左手が触れていた。指先だけ、撫でられるように。
「少し、話したいことがあるんだけどさ」
「はい」
京本さんはゆっくりと起き上がり、私と同じように正座をして正面に座った。
「この家のこと。それと、両親の前で言ったこと」