京本さんはいつも私を困らせる

episode14

「凛ちゃんおはよう」
「おはようございます!」
台所に行くと、すでに奥様が料理の準備をしていた。
「遅れてすみません」
「大丈夫よ。わたしもさっき起きたばかりだから。昨日は寝れた?慣れない場所で大変じゃなかった?」
昨日の夜...

『政府公認の暴力団なんだ』

「はい!布団も掛け布団もとっても暖かったです!」
「そう。それならよかったわ。ちょうど洗濯したばかりだったのよ」
「そうだったんですね」
2人で台所に立ち、手際よく作業を進めた。奥様は鮭を塩焼きで焼き、同時並行で味噌汁も作っていた。
私は使った食器を洗ったり、机の上に並べたりした。
「響、変なこと言ってなかった?あの子って寝言がすごいから、心配で」
「私も早くに寝ちゃったので、そんなには気になりませんでした」
小さく笑うと、奥様も揃って笑った。彼女のくしゃっと笑う笑顔は、本当に京本さんにそっくり。瓜二つそのまま。
「昨日、いきなりあの子が凛ちゃんを連れてきて、さらには結婚の申し込みをして。響を見る前に、まずあなたの反応を見たの」
あの空間に4人だったとはいえ、見られてたなんて恥ずかしい。
「わたし、変な顔してませんでした…?」
「変な顔?!そんなのしてなかったわよ。緊張してたけど」
デスヨネー。
人生初めての彼氏の実家。緊張しない方がおかしいものだ。
「でも、本当に2人で決めた事なのかな、とは思ったのよね。響の目はキラッキラしてたけど、凛ちゃんは不安要素が取れてないように見えたの」
「不安要素、ですか?」
「うん。年老いるとね、結婚してた場合に長いこと異性と暮らすから、勝手に女性の気持ちとか、分かってしまうの」
「そう、なんだ...」
奥様はただただ私を見ていただけじゃないんだ。しっかりと芯が通った理由があり、それを実行できるほどの意思がある。この方は、この先も関わっていかないと人生損した気分になると思う。
「実は、昨日の夜に響さんとお話ししたんです。ここの家業のこと、響さんのこと、将来のこと———」



昨夜、寝る直前の話
『京本さん』
『ん?』
布団に入り、本の続きを読んでいる京本さんの隣に座った。自然と体を引き寄せられて、肩に自分の頬を預けた。こんなに自分から甘えるなんて、初めて。
『わたし、京本さんのこと、もっとたくさん知りたいです』
『例えば』
『好きな本、好きな食べ物、好きな仕草...他にももっと色んなことです』
『そっか。ちなみに一番お気に入りの本は、これじゃないよ』
手に持っている本を見せてきた。私は深く頷き、内容の続きを読ませるように促した。
『だから...その.....』
『ん?で?』
『もう、大好きで仕方なくて。なんて言えばいいのか分からないんですけど、多分、もっとたくさん一緒にいたいってことなんだと思います』
これが好きなのか、愛なのか。それはまだ、分からない。でもこれだけは言える。

私は、京本さんと離れたくない。

京本さんは本を閉じて床に置いた。そしてあいた手のひらで頭を撫でてきた。撫でるというよりも、頭全体を覆うように。
『今度、2人で出かけようか』
『え?』
『普通のお出かけとかじゃなくて、ちゃんとした旅行。どう?』
『...もちろん』
『あー!俺は幸せ者だー!』
『ま〜た始まった。これ、今月で何回目ですか』
首が締まるほど苦しい。死にそう、なんだけど、私も京本さんの真似をしてしまう。
『凛ちゃんもそう言う割には強いじゃん。これ、かなり苦しいんですけど』
いつの間にかハグする時は私の方が独占欲強くなって。京本さんは軽く腰に手をやるだけ。
『旅行、計画立てましょう!』
『もう?早くない』
『行くとしたら...温泉!これからの季節温泉は最高ですよ!箱根!軽井沢!』
『はいはい分かりました。もう今日は遅いから寝ましょうね』
落ち着く声は、耳の中で溶けることなく残り続けた。はぁ、好きって思いが抑えきれないよ...

後書き
「あなたたち、どれだけ幸せなのよ...」
「そうですか?これくらいが普通だと」
台所で響の溺愛ぶりを話す凛。和枝は驚いたが、自身も厳からの愛情表現が激しかったため、まさかの納得。
ここだけの話、厳さんはすぐにハグをしたがるそうです。和枝が小さくて、仕方がないんだとか.....
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