京本さんはいつも私を困らせる

episode5

「京本さん?京本さ〜ん」
「ん.....」
二人でテレビを見ている間に京本さんは私の肩にもたれかかったまま寝てしまった。私はそっとリモコンに手を伸ばしてテレビを消した。
「はぁ.....」
どうしよう、この状況。話しかけても返答なし。反対側の肩をさすっても反応なし。
ついさっきキスをしたきり。
「.....」
彼をソファに寝かせて、静かに立ち上がった。
しばらく無言で窓の外を見つめた。マンションの一室とは思えないほど大きな窓。天気も晴れていて、星がよく目立つ。こんな豪邸に住んでるなんて、京本さん、一体どんな仕事してるんだろう。
「りーん」
「京本さん、起きましたか?」
「うん.....」
京本さんは近づいてハグをしてきた。
「京本さん?ん.....ほら、ベッドで寝ましょう?」
顔を離したと思えばさっきよりも体の距離が近くなった。引き寄せられて心の距離も近づく。何度も唇を重ね合って、息継ぎをする間も与えられなかった。
「京、本さん.....酔っ払ってます?」
「ん〜、、酔ってないよ」
「こんな京本さん、初めてです」
「う〜ん、そうですか」
京本さんは意地悪に笑いながら私の頭をポンポンと撫でた。
「ほらほら、行きますよ」
「やだ、もう少し」
二人で窓の前で立ち止まった。
「今日は雨が降ったり止んだりでしたね」
「そうだね。凛ちゃんは雨好き?」
「雨、好きです。花粉ないから」
「へへ、そっかー」
軽くあしらうように鼻で笑われた。
「.....凛ちゃんも、今日疲れてる」
「京本さんは、なんであの時ビルにいたんですか」
「あの時って、あの時だよね」
「あの時です」
「仕事に疲れた時、いつもあそこに一人で行ってる。あー!って叫びたくなったら屋上に足を運んで本当に叫んでるんだ〜。だってどうせ誰も来ないし、って時に、凛ちゃんが現れた。」
酔い口調だけど、その中にいくつもの思いやりがあった。好きな人の声って、なんでこんなにも優しいのかな。
「京本さんは、私の命の恩人です」
「光栄ですな〜」
京本さんは私の腕を解いて視線を合わせてきた。
「凛ちゃんかわい〜」
ただそれ言うだけのために、目を合わせてきた。
「はいはい」
「また塩対応だ〜」
「いつも通りですよ」
「お客さんの前ではニコニコなのに」
「あれは営業スマイルです」
「俺にも営業スマイルやって」
「絶対やだ」
私は困ったように笑った。
「あ〜ぁ、機嫌悪くなった」
「機嫌は寝れば治ります」
「分かりました〜」
京本さんはふらつきながら寝室に向かった。その姿を見届けながら、ベッドに寝転ぶまでこっそり確認した。いつの間にかお酒を飲んでいたのか、ベッドに入った瞬間ぐっすりと眠ってしまった。
「かわいいな.....」



「ん.....」
「おはよ」
「おはようございます」
京本さんの腕枕と共に朝を迎えた。
「今日大学?」
「大学です。11時からです」
「送って行きますよ」
「いやいや、お仕事もあるでしょうし。ありがたいですけど、大丈夫です」
私は体を起こした。手と手を絡めて上は上へと体を伸ばした。
「はぁ〜!うわっ!何するんですか!」
すると、下から京本さんが脇をくすぐってきた。
「お返しです!」
私も京本さんと同じように首をくすぐった。京本さんは逃げるようにベッドの上を転がった。追いかけっこをしてついに京本さんの腕をつかんだ。
「やった!えっま.....」
京本さんは私の腕をグッと引っ張り抱きしめた。
「ほら油断した」
こんな声朝から聞いたら、キュン死確定。
「朝ごはん食べる人」
「はーい」
小さく手を上げると京本さんは笑って起き上がった。
「凛ちゃん酔ってる?」
「朝なのに酔ってるわけないでしょう」
「なんかずっとニコニコしてる」
「気のせい気のせい」
そのまま立ち上がり黒いスリッパを履いてリビングに向かった。
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