忘れないまま恋をした
5
夕暮れの帰り道。

オレンジ色の空の下、直哉が立ち止まった。

「柚」

その呼び方だけで、胸がざわつく。

「俺、柚のこと――」

やめて。

言わないで。

「好きだよ」

世界が、静まり返る。

違う。

違う違う違う。

「無理」

反射だった。

「無理だから」

直哉の表情が固まる。

息が苦しい。

逃げ場がない。

「わたし、結婚してたの」

初めて、はっきり言った。

「今も、その人の奥さんのつもりなの」

喉が震える。

「その人は、もう隣にはいないけど」

それでも。

「私の中では、終わってないの」

言葉が途切れる。

「だから……好きとか、言われる資格ない」

自分で自分を刺しているみたいだった。

颯斗を守るためじゃない。

自分を守るためでもない。

まだ、手放せないだけ。

夕焼けの色が、やけに滲んで見えた。
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