勇者殺しの最強補助魔術師 「お前は追放だ!」と私に言ったロートル勇者が堕ちて魔王となる物語

魔術師の追放

「お前は追放だ!」

 宣告を受けた私はついにこの日が来てしまったと思いつつも首を横に振った。

 違う、あなたは間違えている。そうであってはならないのだ。

「それはいけません勇者アリィ。もう一度お考え直してください。いまのあなたには私が必要なのです」

「いいから俺の隊から出て行けと言っているんだ! 聞こえないのか! 自分が必要だなんてお前の都合を押し付けるなこのエゴイストが!」

 武道着を着ている彼が威嚇のつもりだろうか叫びながら机の上を拳で叩いている。

 もちろん私にはその怒鳴り声は聞えているしその感情的な行動が危険なことも分かっている。

 そんなことも分からなくなってきているのかこの人は? と私は心配になり周りを見渡した。

 幸いなことにこの勇者隊の事務所には私たち二人以外いない。ただ窓の外で誰かがこれを聴いている可能性がある。

 もしもいま私を追放するという声が聞こえたとしたら……勇者アリィが危険となる。

「落ち着いてください。そしてどうかお考え直しを願います。あなたのこれからの戦いにおいて私を追放するのは誤りです。そんなことをしたらあなたの身に更なる危機が迫ります。あなたには私の補助魔法が必要です。今のは聞かなかったことにしますから、どうかここは追放を無かったことに」

「だからさぁ! お前のその態度が! 俺を自然に下に扱っている態度がもう耐えられないんだ! 分かんねぇのかよゴラァ! 俺に補助魔法なんてかけるんじゃねぇよ! テメェの支配なんかうけねぇぞ! そうだお前は俺がそんなに弱くなったと見下しているんだ!」

「見下しているなんて、そんなことはありませんよ。ただあなたの現状を見ればそうしないとなりません」

「そんなことがあるからそう言ってるんだ! お前は俺の部下の癖に手下のはずなのに生意気だ! 俺はいままで我慢してやってきたんだぞ! お前のその偉そうな態度を! 世界の平和のために! 耐え難きを耐えてきてやったんだ! それなのになんだその舐めた態度は……俺はもう耐えられないんだ!」

 悲鳴を聞きながら私はそうかもしれないと思った。私が良かれと思ってきたことはこの人には気に喰わないことが多かったかもしれない。

 私には想像や理解ができない葛藤や苦悩がこの人の中に渦巻いていたのかもしれない。その高すぎるプライドが私の行いが結果的に上から目線の見下し行為となってしまい、拒絶反応を起こしているのかもしれない。

 だけどそれは世界の平和のために必要なものでありこの人のためでもあると思っている。大義のために戦うこの勇者には絶対に必要なものである。

「しかし勇者アリィ、あなたはもうお身体が優れないのですから今までのような無理をせず、そこまで補助魔法を拒絶するのならここは一度お休みになられたほうが良いのでは? これまで何度も申しましたがここでも繰り返します」

「うるせえええええ! 俺は休んじゃ駄目なんだよ! 世界平和のために戦い続けるんだ! 年中無休なんだよ!」

「しかしその状態では以前のようなあなたの動きにはもう……」

「なんだその言葉は! たかが魔術師の分際で勇者に意見しやがって何様だごらぁ!? そういうのはな二十六時間三百六十五日戦い続けてから俺に意見しろ! 毎日定時に上がって休みをとっている私欲に塗れた怠け者なんかが俺に意見するんじゃねぇ! 俺ぐらい働いてから言え!」

 そう勇者アリィの身体は長年の酷使によって歪み壊れかけている、というかこのあいだ壊れた。一時的な治療によってなんとかなっているがその慢性的な腰痛に膝痛そして猫背など全身がガタついていて調子のいい日などもうずっとない。

 とてもじゃないが健康とは言えない外見と中身である。当然だが昔はこうではなかった。といっても去年ぐらいの話だ。

 もっと言えば私と出会ったころはこうではなかった。その名の通り勇者といえるほどの立派な身体をしていたのだ。

 だがそれは魔王との戦いによってこうなったのだ。世界平和のためにこうなった。まぁ魔王はもういないわけだが現在はその残党の討伐がメインである。そこまで無理をする必要は皆無なのだ。

「勇者アリィ、魔王は倒され我々に残された使命は魔王軍の残党を討伐し続けること。もう長期戦の形になったのですから、もうあなたはここでひとまずは少し休まれて」

「黙れナキ!」

 私の名が叫ばれると同時に頬に一撃を喰らい口の中に鉄の味が広がった。その血と共に味わったのは痛みよりも驚きだった。

 あの勇者アリィの怒りの鉄拳がいまはこの威力なのか、痛みがこの程度なのか。魔王に恐れられた勇者の力はここまで衰えているのかと。自分の中の哀しみの方が痛いほどに。

 見返すと勇者アリィが怯えているように見える。私がダメージをたいして喰らっていないことに衝撃を受けているのだろう。またひとつこの人は私で傷ついたのか?

 ひとつひとつの私の反応がこの人を惨めな思いにさせているのか? 
 だから、こうなったのか?

「おっおい! 俺をこれ以上怒らせるな! 次は本気で殴るぞ! そうしたらお前みたいな小僧の首なんか折れちまうんだからな」

 無理だ、と私は言葉を堪えながら思った。考えたくもなかったし思いたくもなかった。ここまで弱体化した勇者アリィの実力を。かつて私を暴力で圧倒出来ていた勇者がこうなってしまったとは。

「いっいいかこの勇者隊において俺の言うことを利けない奴は出て行くのが筋だ。こんなの一般常識だ。この非常識野郎が! いつも自分の考えを押し付けるんじゃねぇ! 特にお前みたいな隊長の考えにいちいち口を出すうえに、俺の身体を気遣っているふりをして俺を隊から追放させて乗っ取ろうとしている奴なんかに、これ以上この隊にいさせてたまるものか! 休めだの引退しろだとバカ言うな! 勇者に引退の二文字は無いんだよ! 世界平和のために死ぬまで戦うのが勇者の使命なんだ。お前なんかに俺の信念が分かってたまるか! 所詮定時上がりに戦うパートタイマーみたいなやつにはな! 俺とお前とは覚悟が違うんだよ!! 自己犠牲の精神で俺は死ぬまで戦うんだ!」

「勇者アリィ! 私がいなくなってしまったらあなたは」
「お前がいなくなれば俺に安寧が訪れる。ほらここから出て行け! 消えろお節介野郎!」

 扉が開かれその先には空間移動のための魔方陣が広がっている。勇者の事務所の出入りは許可制によるものだ。追放を宣告されたら許しが出るまで二度とここには戻っては来れない。

 だから私は勇者アリィに再度願う。たとえそれが拒絶されようがもしもこれが正当なる行為だとしてもだ。

「聞いてください。私はあなたに対して追放や乗っ取りなど、そんなことは思ったことなど一度も無いのです。私はあなたの戦いの力にただなりたくて」

「このエゴイストが! お前の言葉など聞いていられるか! 優しいふりをして俺を雑魚扱いしやがって! その俺を見下した態度にどんなに悩んで来たか分からないだろ! せっかくここまで育ててやったのにその態度に言動! 許せねぇ! 俺がどんなに傷ついてた、お前のせいだ! この身体になったのも全部お前のせいだ出て行け! 本当に俺のためになりたいし俺を救いたいのならいますぐ目の前からいなくなれ! お前の存在が俺にとっての一番のストレスなんだよ!」

 俺は事務所の外に押し出され扉は音を立てて閉められた。きっとあの人は扉を押さえているのだろう。俺を中に入れさせないがために。必死に痛む身体に鞭打って精一杯に。自分の心を守るために。

「なんなんだよあいつ……」

 第三者の声がし振り返るとそこに戦士ルッサがいた。勇者隊の一員でありいわば私の後輩という関係である。

「ずっと聞いてましたよナキさん。あいつやっちまいましょうよ」

 つまり、こういうことを言う奴なのである。

「やめてくれルッサ、そういうことはしちゃ駄目だ。あの人は勇者なんだ。このことは何度も言っていることだ」

「選ばれしものに手をかけてはならないってやつですよね。だけど俺はナキさんに対してのあれのいつもの態度は見てられないっすよ。こうやってあんたが追放されたんですからあれと俺はもう関係ないからね」

 ルッサは私がスカウトしたものであり勇者アリィが身体を壊してからの隊員であるため、彼は勇者との関係よりもこちらを重視している。だからこその懸念がここなのだ。隊のなかでの不穏分子の暴走が問題なのだ。

「落ち着け。お前の罪が許されるのは期間中の魔王の残党の討伐が条件だろ? そのためには勇者の隊に加わり戦い続ける必要があるのだ。それとも罪人となって逃亡者となるつもりか?」

 彼は他の隊での上官殴打による処罰を受けたためこちらで引き取った。まぁ監獄から狂犬を引き取った感じである。

「そうしたらナキさんにも迷惑が掛かるってのは知っていますよ。ですが俺たちはあれにはもう……」

「頼むよルッサ。この追放も一時的な発作みたいなものだ。そのうちきっと私を呼び戻すと思うからその時まで待っていてくれ。勇者アリィから連絡が来たらすぐに戻ってくるから」

「そうなって欲しいけど、そうなるすかねぇ……」

 その呟きに私は寒気を覚えた。最悪の場合ルッサを筆頭に隊の不穏分子たちが勇者アリィを追放するかもしれない事態。

 あの偉大な後世に名を残すであろう勇者の最後が隊員から見放されての追放であったら……そんなことはあってはならない。彼は最後まで勇者として戦い続けなければならないのだ。

 そうでなければならない。

「魔王の残党ももう少しという見通しだ。きっとあの人も私がいなくなることで心が落ち着くはずで多少は意見も通りやすくなるはずだからどうか堪えてくれ」

 我ながらしつこい説得だなぁと感じつつルッサも望みが薄いと思いながらも、溜息を吐きながらも応じてくれたようであった。

「……まぁ分かりましたよ。俺としてはあんたが戻ってきてくれることを祈るだけです。実質的に隊員のリーダーでしたしね。それでこれからどうするんですか?」

「隣の地区の勇者隊に声を掛けてみるつもりだ。まぁそちらには長居はしたくはないがな」

「あんたならすぐに歓迎されるよ。俺ぐらい強いんだからどこに行っても通用するぜ」

 こういう奴である。自信過剰で自分より強いものには従順なタイプ。

「それに比べてあいつは……チッ!」

 よってその反対な存在に対してはあからさまに反抗的なのだ。若く傲慢な色黒な青年、それがルッサという男なのであった。

「お前はあの人の昔を知らないからそう言うんだ」

「俺、昔話は興味ないから。けどさナキさん、そういう昔の思い出があいつを駄目にしているって思わない? ねぇ?」

「……では行ってくる。またな」

「すぐに帰ってきてくれよ。あいつの指揮じゃ魔王の娘は倒せそうにないからね。もっとも俺があんたの引継ぎで隊員の指揮は執るからそこは安心してくれよ」

 ルッサの言葉を背に受けながら私は魔方陣を踏み光に包まれた。かくして私は追放された。勇者に嫌悪され拒絶されそしてエゴイストと糾弾されながら。
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