冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~
――ーー明朝。もどかしい感情を抱えながらヒストリアはアリアと共にエリザベートを待っていた。
幸いにもあれからロイドが現れる事はない。おそらくエリザベートが意識を逸らしているのだろう。
だが、悠長には構えていられない。
一刻も早くエリザベートに自分たちの作戦は不可能だと伝えなければならないのだ。
ユリアンの印はあれからまた動き始めたが、王都近郊に入る手前で再び止まってしまった。
婚姻の儀までに間に合うなど保証がない。
一刻も早くこの地下牢から出ていかなければ。
そんな不安を感じ始めていた頃、静かに地下牢の扉が開いた。
そこにはエリザベートの姿はなく、険しい表情のラキュウス辺境伯ただ一人。
「……大丈夫ですかっ!?」
「遅くなってすまない……」
脚を引き摺りながら、階段を降りてきたラキュウスは事、の顛末をヒストリア達に伝えた。
浄化石を求めた神殿の真意。
そして急襲時に幻覚の魔法使いが現れ、魔法使いが神殿の聖騎士や聖女の身体を使って怪物を造り上げたこと。
証拠は押さえたが、ラキュウス辺境伯しか辿りつけなかったこと。
その怪物が形態を変えドラゴンのような姿で猛追してきたこと。
「今はユリアンがニッカと共に怪物が王都に入らないよう、食い止めてくれている……幻覚の魔法使いもそこに居る」
アリアは苦し気に眉根を寄せた。
「私は一度降ろされ、城を目指した……だが、そうか…ルーメンが……」
生唾を呑み、剣呑な瞳で床を見据えるラキュウスは唇を噛みしめたあと重い息を吐きだした。
「でもベリルの言うように浄化石を使えばルーメンの洗脳も解けてロイドも抑えられますよね……」
ヒストリアの表情は、声の勢いが落ち。
「いや。そう簡単な話ではない……」
硬い声でラキュウスは首を振った。
「ロイドの脅し、それだけなら君の聖力でねじ伏せることも可能だろう。それに浄化石もある」
「だったら……」
「ヒストリア。ルーメンの魔法の特性を思い出してくれ」
「縮小と拡張魔法……」
「そうだ。つまり力を拡張しさらに引き出すことが出来るように、その反対も可能というわけだ」
「そんな……」
「予測の域に過ぎないが、洗脳解除は抵抗される。ユリアンが居れば回避も接近も対応しやすかったが……地上からとなると……覚悟しておいた方がいい……」
ルーメンと真っ向から戦う事になり得ない。
ラキュウスの口振りはそう言いたげだった。
「私たちがロイドを出し抜くためには、二つの条件を揃える必要があるだろう……一つ、ユリアン達が幻覚の魔法使いを食い止めている間に行なうこと」
「二つ目は、ロイドとルーメンに気取られず、一気に洗脳と聖者の力を浄化することだ。だが君の祈りは対象に近いほど強い作用が働くのだろう?そこをどうするか……」
エリザベート曰く、ロイドが命令の重ねがけが可能となっている今、流動的な対処が可能な相手に真っ向から挑むのは下策だ。
ヒストリアは途方に暮れ、言葉に迷っていた。
祈りには助走が必要。すぐに発動出来るものではない。
そしてラキュウスの言う通り、祈りは相手が近いほど強い影響を与える。
ルーメンの傍に行く必要があるが、ルーメンを侍らせているであろうロイドに阻止される。
例の『自害させる』という言葉だって、命令として未到達であるという仮説を検証するような時間すら与えられないかもしれない。
その場に沈黙が落ちた。
「……ところでヒストリア嬢。君の姉はハープを弾くのか?」
行き詰まった答えに彷徨う沈黙を割るようにラキュウスが訊ねた。
「はい……確かシェリル王女とは、それがきっかけで友人関係になったと記憶していますが……何か関係しているのですか?」
「君の姉がハープを習得するようになったのは、神殿が勧めたからだとベリルが言っていた。事付かってきたが、何か心あたりはあるか?私には何が言いたかったのかよく分からないのだが……」
突破口があるのではないかと、ラキュウスは思い出したのだろう。
確かにディート地区を離れる前、ヒストリアはベリルに姉の事を教えてくれと頼んでいた。
ベリルは直感の男だ。
姉から聞いた話で神殿と関係していることならば、なにかヒストリア達に益を齎すと感じ託したのだろう。
だが、直ぐに思い当たることはない。
神殿が姉に勧めた、よくよく考えてみればおかしな話だ……なぜ勧めたのだろう。
「――――ヒストリア様、辺境伯様…よろしいでしょうか?先ほどの話で確信しました」
それまで黙っていたアリアが食い入るように言った。
「エリザベート様が言っていました。自分は日陰の存在でいいからイクシス様から本当のことが知りたいと。その意味がようやく理解できました……」
「日陰の存在……?」
「はい。おそらく神殿は、エリザベート様の体質を利用し、イクシス様の聖力を補っていたのです……もはやイクシス様では結界を維持できない、けれどハープの音色は溢れて消える聖力を束ねるのでは?…――」
エリザベートはヒストリアと同等、いやそれ以上の聖力を生み出す力を持ちながらも体質的にそれを溜めることが出来なかった。
ゆえに聖印が現れなかったのだろうと言われている。
印のないエリザベートを名目なしに大聖女に据えられないが、しかし聖力の安定しないヒストリアを大聖女として引き継がせるわけにもいかない。
神殿がイクシスの方法をヒストリアに教えなかったのは聖力を変換する技術が必要だったからだろう。
大聖女教育の一つに、たしかそういったものがあった。
つまりそれが出来なかったヒストリアに国の重要な秘密は教えられなかった。
たとえイクシスと同じ技術を習得出来ていたとしても、あの頃のヒストリアなら姉に補ってもらうことなど認めなかっただろうが。
アリアの推察は、ヒストリアにとって希望となるものだった。
「……イクシス様はエリザベートから補った聖力を自分のものに変換して結界に流していたのね……変換は私には出来ないけれど……浄化石なら使うことは出来る……結界はこの国に張り巡らされているから、そうよ……」
考えをまとめるよう口にしながら、ヒストリアは頬を上気させた。
「ラキュウス辺境伯!浄化石と結界を利用すれば一気に浄化できます」
幸いにもあれからロイドが現れる事はない。おそらくエリザベートが意識を逸らしているのだろう。
だが、悠長には構えていられない。
一刻も早くエリザベートに自分たちの作戦は不可能だと伝えなければならないのだ。
ユリアンの印はあれからまた動き始めたが、王都近郊に入る手前で再び止まってしまった。
婚姻の儀までに間に合うなど保証がない。
一刻も早くこの地下牢から出ていかなければ。
そんな不安を感じ始めていた頃、静かに地下牢の扉が開いた。
そこにはエリザベートの姿はなく、険しい表情のラキュウス辺境伯ただ一人。
「……大丈夫ですかっ!?」
「遅くなってすまない……」
脚を引き摺りながら、階段を降りてきたラキュウスは事、の顛末をヒストリア達に伝えた。
浄化石を求めた神殿の真意。
そして急襲時に幻覚の魔法使いが現れ、魔法使いが神殿の聖騎士や聖女の身体を使って怪物を造り上げたこと。
証拠は押さえたが、ラキュウス辺境伯しか辿りつけなかったこと。
その怪物が形態を変えドラゴンのような姿で猛追してきたこと。
「今はユリアンがニッカと共に怪物が王都に入らないよう、食い止めてくれている……幻覚の魔法使いもそこに居る」
アリアは苦し気に眉根を寄せた。
「私は一度降ろされ、城を目指した……だが、そうか…ルーメンが……」
生唾を呑み、剣呑な瞳で床を見据えるラキュウスは唇を噛みしめたあと重い息を吐きだした。
「でもベリルの言うように浄化石を使えばルーメンの洗脳も解けてロイドも抑えられますよね……」
ヒストリアの表情は、声の勢いが落ち。
「いや。そう簡単な話ではない……」
硬い声でラキュウスは首を振った。
「ロイドの脅し、それだけなら君の聖力でねじ伏せることも可能だろう。それに浄化石もある」
「だったら……」
「ヒストリア。ルーメンの魔法の特性を思い出してくれ」
「縮小と拡張魔法……」
「そうだ。つまり力を拡張しさらに引き出すことが出来るように、その反対も可能というわけだ」
「そんな……」
「予測の域に過ぎないが、洗脳解除は抵抗される。ユリアンが居れば回避も接近も対応しやすかったが……地上からとなると……覚悟しておいた方がいい……」
ルーメンと真っ向から戦う事になり得ない。
ラキュウスの口振りはそう言いたげだった。
「私たちがロイドを出し抜くためには、二つの条件を揃える必要があるだろう……一つ、ユリアン達が幻覚の魔法使いを食い止めている間に行なうこと」
「二つ目は、ロイドとルーメンに気取られず、一気に洗脳と聖者の力を浄化することだ。だが君の祈りは対象に近いほど強い作用が働くのだろう?そこをどうするか……」
エリザベート曰く、ロイドが命令の重ねがけが可能となっている今、流動的な対処が可能な相手に真っ向から挑むのは下策だ。
ヒストリアは途方に暮れ、言葉に迷っていた。
祈りには助走が必要。すぐに発動出来るものではない。
そしてラキュウスの言う通り、祈りは相手が近いほど強い影響を与える。
ルーメンの傍に行く必要があるが、ルーメンを侍らせているであろうロイドに阻止される。
例の『自害させる』という言葉だって、命令として未到達であるという仮説を検証するような時間すら与えられないかもしれない。
その場に沈黙が落ちた。
「……ところでヒストリア嬢。君の姉はハープを弾くのか?」
行き詰まった答えに彷徨う沈黙を割るようにラキュウスが訊ねた。
「はい……確かシェリル王女とは、それがきっかけで友人関係になったと記憶していますが……何か関係しているのですか?」
「君の姉がハープを習得するようになったのは、神殿が勧めたからだとベリルが言っていた。事付かってきたが、何か心あたりはあるか?私には何が言いたかったのかよく分からないのだが……」
突破口があるのではないかと、ラキュウスは思い出したのだろう。
確かにディート地区を離れる前、ヒストリアはベリルに姉の事を教えてくれと頼んでいた。
ベリルは直感の男だ。
姉から聞いた話で神殿と関係していることならば、なにかヒストリア達に益を齎すと感じ託したのだろう。
だが、直ぐに思い当たることはない。
神殿が姉に勧めた、よくよく考えてみればおかしな話だ……なぜ勧めたのだろう。
「――――ヒストリア様、辺境伯様…よろしいでしょうか?先ほどの話で確信しました」
それまで黙っていたアリアが食い入るように言った。
「エリザベート様が言っていました。自分は日陰の存在でいいからイクシス様から本当のことが知りたいと。その意味がようやく理解できました……」
「日陰の存在……?」
「はい。おそらく神殿は、エリザベート様の体質を利用し、イクシス様の聖力を補っていたのです……もはやイクシス様では結界を維持できない、けれどハープの音色は溢れて消える聖力を束ねるのでは?…――」
エリザベートはヒストリアと同等、いやそれ以上の聖力を生み出す力を持ちながらも体質的にそれを溜めることが出来なかった。
ゆえに聖印が現れなかったのだろうと言われている。
印のないエリザベートを名目なしに大聖女に据えられないが、しかし聖力の安定しないヒストリアを大聖女として引き継がせるわけにもいかない。
神殿がイクシスの方法をヒストリアに教えなかったのは聖力を変換する技術が必要だったからだろう。
大聖女教育の一つに、たしかそういったものがあった。
つまりそれが出来なかったヒストリアに国の重要な秘密は教えられなかった。
たとえイクシスと同じ技術を習得出来ていたとしても、あの頃のヒストリアなら姉に補ってもらうことなど認めなかっただろうが。
アリアの推察は、ヒストリアにとって希望となるものだった。
「……イクシス様はエリザベートから補った聖力を自分のものに変換して結界に流していたのね……変換は私には出来ないけれど……浄化石なら使うことは出来る……結界はこの国に張り巡らされているから、そうよ……」
考えをまとめるよう口にしながら、ヒストリアは頬を上気させた。
「ラキュウス辺境伯!浄化石と結界を利用すれば一気に浄化できます」