冤罪で聖印を奪われた令嬢、辺境で本物の大聖女になる ~傲慢令嬢ヒストリアの救済証明~

だが慌てるでもなく、ヒストリアは……ーーーー



「献身なんて……そんなしおらしくしてられないわよ」


聖なる光に向かって言った。

もう気づいたのだ。
シルドバーニュの大聖女は、献身という呪縛から解放されるべきだ。


ヒストリアの中で大聖女という概念は再定義されていた。

過去の聖女の悲劇はここで断ち切るべきだ。

諦めて俯き続けることも、
目を逸らすことも、
過去に囚われ続けることも、選ばない。

ヒストリアは足掻き続ける事を選ぶ。


ーー自分の思いを諦めて、他者へ慈愛を注ぎ続けるなど、それを美徳として称賛することは出来ないから。

自分の願いも含めて叶えられるべきだとヒストリアは強く思った。


だからそにために、折れても立ち上がらなければならない。

心の在り方一つなどとは言わない。
精神論を語るつもりもない。

けれど……喚くのでなく、足掻いているうちに、実際ほんの少しだけ前に進んで、変わることがある。

執念は自分の世界を変える。
ヒストリアはもう一度、歌った。

在りしの記憶に残る幸福の歌を。


聖女とは、……人間とはきっと、生き方だ。


階級に職業、様々な立場という印の元に様々な営みがあり、しかしそれは一過性の記号に過ぎない。
一夜にして立場を失ったヒストリアだからこそ痛感する。

どう在りたいか望み続けることこそが、自分を自分たらしめるのだと。

ヒストリアは声を響かせ願った。
聖印がなくともヒストリアは大聖女だ。

この結界を支配してみせる。


そして浄化石を一層強く握りしめる。
ルーメンの拡張魔法が施されたそれは熱を持ち今までになく輝いている。

眩い光を全身に浴びながら、今度は共鳴でなく塗り替えるようにヒストリアの歌声が満ちた。



ーーーーすると、ついに大きく空が揺れた。
反発ではない。
心臓が脈打つように結界が揺れたのだ。

そして一瞬の間を置いてから、シルドバーニュの結界に白銀の光が流れてゆく。

国中に浄化の光の雨が空から降り注ぎはじめた。

「なんて美しいの……」

アリアの恍惚とした声が近くで聞こえた気がした。
その時……己の名を呼ぶロイドの声が響く。

「ヒストリア!」

同時に大きな揺れを感じ、ヒストリアは身体を強張らせながらも歌って、視線だけを後方にやる。

視界の端でアリアが身構えて「来ました……」とだけ呟いた。


もう動揺しない。
あと少しなのだ。

ヒストリアは静かに身体の向きを変える。
太い植物が壁の一部を突き破っていた。

そして、それを利用して上がってきたであろう冷えた瞳を向けるルーメンを見つめた。
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