この最低で綺麗な世界にさよならを

誰の思い出

みんな、奏子を探しに行こうと言ったけれど、私は断った。
どいつもこいつも誰かのことを理解していないんだと思うと、イライラしてくる。
家に帰る道を通りながら、ぼんやりとそんなことを思った。
あれ。なら。
私は彼女のことを何パーセント理解しようとしていたんだろう。
まさか、私も理解していなかった?
本当は奏子は探しに来てほしかった?寂しいんじゃないのか?
『ねえ、探しに行きましょうよ。暗くなると危ないし…』
『会った方がいいんじゃない?慰められるかもしれないし』
『かわいそうだよ』
脳内で誘い文句として使われた言葉の数々が脳内でノイズを起こす。
『危ない』『慰める』『かわいそう』
あれもこれも、誰かに何かをするときに使う言葉だ。
『君って、本当に奏子ちゃんの友達なのか?奏子ちゃんがかわいそうだよ』
隠していた、わからないように秘密裏にしていた言葉の数々が相変わらずヘドロのようにまとわりついて、気持ち悪い。
『君って、本当に奏子ちゃんの友達なのか?奏子ちゃんがかわいそうだよ』
『君って、本当に奏子ちゃんの友達なのか?奏子ちゃんがかわいそうだよ』
『君って、本当に奏子ちゃんの友達なのか?奏子ちゃんがかわいそうだよ』
『君って、本当に奏子ちゃんの友達なのか?奏子ちゃんがかわいそうだよ』
『君って、本当に奏子ちゃんの友達なのか?奏子ちゃんがかわいそうだよ』
やめてやめてやめてやめて。
奏子とろくに関わったことのないようなやつが私に『本当に友達』なのかなんて聞かないでよ。
本当の友達ってどういう意味?
相手のことをすべて知っているということか?
そんなのおかしい。だって奏子っていう名前のルーツは私は知らない。奏子自身も知らないと言っていたのだ。

そんな話じゃないって?
じゃあ何?
きっと奏子だって私のことがすべてわかっているはずではないのだ。

他人に責任を押し付けるのか?
違う。そうじゃない。私のせいじゃない。奏子のせいじゃない。誰のせいではない。

結局奏子とは友達じゃないと言いたいのか?
違う違う。そんなことじゃない。私と奏子は友達…あれ?
友達ってなんだ?
仲が良いことか?
よく話すことか?
相手のことをすべて知っていることか?

まるで病んでしまったみたいだ。
脳内でぐるぐるとめまいがし始め、私は思わず口を押えた。
けがをした手は医者にサービスで無料で応急処置をしてもらった。

何だか、違うことを考えたら心が落ち着いてきた。
それでも、落ち着いたと思った瞬間にまた脳内がノイズであふれた。
仲良しと友達は違う。
私は奏子にとっての友達だ。

呪いのようにそう思っていた。
でも違った?


君は家族がいなくなってできた空白を奏子で埋めようとしたんだろ?
違うそうじゃない。そんなわけない。

本当になんだこの声は?
合成音声のような声が脳内でノイズとともに鳴りやまない。
何これ。
苦しいし、悲しいし、悔しい。嫉妬心、イライラ。
負の感情が訳が分からないくらい響き合って、できたような声。

ほら、逃げないでよ。
自分の感情に素直になろう?

嫌だ嫌だ嫌だ。なにこれ?

走った。走り続けた。立ち止まったら、何かに飲み込まれてしまいそうだったから。
家の中に入った途端、急に脱力して、玄関にあおむけになった。

なんとなく、奏子が来てくれることを待ってしまった。
奏子が来れば、私と奏子が本物の友達なんだということを、あの合成音声に見せつけてやりたかったから。
来なかった。
勝ち誇ったような声が聞こえた。

ほら、見ただろ?君の勘違いだったんだよ。
やめて。
やめて。
やめて。
「じゃあ、奏子と遊んだのは、誰の思い出?」
ほとんど消え入るような声でつぶやいた。

合成音声が答えてきた。

それは、君の思い出。ただの仲良しだとしても遊ぶだろう?
ほら、君も奏子も、「友達になろう」なんて全く言ってないだろう?

やめて。

まだ現実逃避でもするのかい?君はもう現実を見据えなきゃいけないんだよ。
違う違う!
やめてやめて。
わざわざ、仲の良い人に対して「友達になろう」なんて言うのか?

あれ、その論理だと仲良し=友達になるよ?

違う違う。
そういう意味じゃない。

じゃあ…
もうやめて。あんたは何。誰。何がしたいの。
合成音声を遮った。

君はとんでもないばけものと友達になろうとしているってこと。
ばけもの?
奏子はばけものなんかじゃない。

ばけものだろう?あんなに仲の良い人が多いんだから。
ぞっとした。
すごいとは思っていたけれど、たしかにおかしい。

あぁ、怪異とかいう話じゃなくてね。仲のいい人が多いってことは、ランク付けがあるに決まっているじゃないか。
え?
考えたこともなかった。

もしかして、君は一位だと思ってたのかい?
そういうわけじゃない。
もともと、ランク付けなんて考え、私の中にはなかった。
でも、もしあったとしたら…。
私は一番だと思い込んでいただろう。
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