甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
「すてきなところですね。シャンデリアもきれいで、お城みたいです」
「ありがとうございます。奥様、2階へどうぞ」

うっとりと店内に目を奪われつつ、桜子は緩いカーブを描く階段を上がり、ドレッサーの前に案内された。

「まずはヘアメイクから整えてまいりますね。ご希望はございますか?」
「いえ、あの。お恥ずかしながら、どういうものがふさわしいのか分からなくて……」
「承知しました。でしたらお任せください」
「はい、よろしくお願いいたします」

緊張の面持ちで、桜子はじっとおとなしく鏡の中の自分を見つめる。

髪をクリップで留められ、(つるんとしたおでこ全開で、相変わらず子どもっぽいなぁ)と思っていたのは最初だけ。

(えっ、嘘。誰これ?)

みるみるうちに変わっていく自分の姿に、桜子は信じられないとばかりに目を見開いた。

目元はぱっちり、頬も唇もほんのりピンクで、前髪はサイドに流し、ハーフアップの髪は毛先がふわりと軽く巻かれている。

「奥様、こんな感じでいかがでしょう? 美しさと可愛らしさが交差するようなイメージで、奥様の魅力を最大限に引き出してみました」

鏡越しにスタッフが桜子に微笑みかけると、他のスタッフも集まってくる。

「まあ、すてき! メイクされてないみたいな透明感なのに、思わず魅入ってしまうほど華やかで」
「本当に。大人っぽいけどピュアで、クールビューティーならぬ、キュートビューティーって感じですね」
「確かに」

スタッフたちは盛り上がり、「ではドレスもそのようなイメージでご用意しますね」と、なにやら相談を始めた。

(左京さんは、これでいいっておっしゃるかな? メイクはいいけど土台が……って、がっかりされないかな)

そんなことを考えていると、スタッフが嬉しそうに戻って来た。

「奥様、ドレスをご用意いたしました。ぜひご試着くださいませ」
「はい」

立ち上がってついて行くと、ふかふかの絨毯が敷かれたフィッティングルームに案内される。

言われるがまま、壁に掛けられていたドレスに着替えた。

「奥様、サイズはいかがでしょう?」
「あ、はい。サイズはぴったりですが……」

着なれないドレスに、これでいいのかと桜子は身体をひねって鏡を確認する。

「では失礼いたしますね。まあ! とってもおきれいです」

カーテンを開けたスタッフが声を上げ、いえいえそんな、と桜子は居心地が悪くなった。

「どうぞシューズも履いてみてください」

用意されていたヒールの高い靴にそっと足を入れ、スタッフに手を引かれて、大きな鏡の前に行く。

そこには、ライラックカラーの膝丈のドレスに身を包んだ、見慣れない自分の姿が映っていた。

ギャザーをたっぷり寄せてキュッと絞られたウエストから、シルクにオーガンジーを重ねたスカートが軽やかに揺れる。

胸元はホルターネックで、首の後ろで大きく結んだリボンが少し甘いテイストになっていた。

「白くてスラリと長い腕が、本当にお美しいです」
「足のラインもきれいで、もううっとり……」

スタッフたちが鏡の中の桜子に、感嘆のため息をつく。

「では1階に下りましょうか。橘様も先ほどお着替えを済まされて、お待ちですよ」

えっ!と桜子は、急にドキドキと緊張し始めた。

(この格好で左京さんのところに行くの? どうしよう、恥ずかしい)

だが、スタッフは嬉しそうに桜子を振り返り、階段へと促す。

「橘様、お待たせいたしました。奥様のお支度整いました」

先に下りたスタッフの言葉に、桜子はギクシャクしながら階段を下りる。

「おお、奥様。とってもおきれいです」

戸部の声がして顔を上げた桜子は、その隣に佇む左京の姿に思わず息を呑んだ。

光沢のあるスリーピースのスーツに身を包み、髪も後ろに流して整えた左京は、まるで映画の中の貴公子のような雰囲気だ。

(左京さん、すてき……)

見とれていると、同じように目を見開いて固まっていた左京がハッと我に返り、桜子に手を差し伸べる。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

桜子が右手を重ねると、左京は優しくその手を引き寄せた。

(こんなふうに左京さんの手に触れるの、初めて)

左京の大きな手の温もりに、桜子の胸は一気にドキドキと高鳴った。

「奥様、どうぞすてきなパーティーを」
「はい、ありがとうございました」

スタッフに見送られて外に出ると、停めてあった車のドアを戸部が開ける。

「足元気をつけて」
「はい」

左京は桜子の手を支えてシートに座らせると、反対側に回って隣に乗り込んだ。

「それでは、出発いたします」

楽しげに戸部がそう言って、車は動き出す。

桜子は、隣に座る左京を意識して、顔を上げられずにいた。
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