甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜
「桜子」
35階でエレベーターを降りると、既に多くのゲストがバンケットホールに集まっていた。

(わあっ、舞踏会みたい)

1歩足を踏み入れた桜子は、広くて豪華なホールの内装と華やかなゲストの装いに、まるで映画のワンシーンを見ている気分になる。

「ハイ! サキョウ」

早速外国の男性が近づいて来て、左京とガッチリ固い握手を交わした。

「So, this must be your wife, right?」
「Yes」

男性は笑顔で桜子にも握手を求めた。

「ハジメマシテ、キースデス」

桜子もにこやかに握手に応じる。

「初めまして、桜子と申します」
「サクラコ? It means Japanese Sakura?」

Yesと答えると、How beautiful!と大げさなほど感激される。

「You look just like the spirit of Sakura」
「あ、いえ、そんな」

思わず左京の後ろに下がると、キースと名乗った男性が左京と英語で会話を始め、桜子はその様子を見守る。

するとふいに別の外国人男性に声をかけられた。

「Bonsoir, Madame」

えっ、フランス語?と、桜子は怯む。

「ボンソワール」

ひとまずそう返したが、そのあとに続く言葉はさっぱり聞き取れない。

右手を差し出され、握手しようとすると、男性は桜子の手の甲に濃厚なキスをした。

ひえっと肩をすくめたその時、後ろから「桜子」と声がして、ハッと顔を上げる。

「左京さん」

左京は桜子の肩をグッと抱き寄せると、相手の男性に流暢なフランス語で話しかけた。

「Excusez-moi, vous voulez quelque chose de ma femme?(失礼。私の妻になにか?)」
「Ah, c'est donc votre femme ?(えっ、奥さんだったの?)」

フランス人男性は、桜子にも「Désolé!ゴメンネー」と謝る仕草をしてから去っていった。

ふうと胸をなで下ろしていると、左京は桜子の肩を抱いたまま顔を覗き込む。

「大丈夫だったか?」
「はい、大丈夫です」
「すまない、少し油断した」
「いえ、そんな」

するとまたしても別の人に声をかけられ、左京は会話を始める。

桜子がそっと身体を離して後ろに下がると、左京は前を向いたまま相手と会話をしつつ、腕を伸ばして桜子のウエストをグッと抱き寄せた。

(ひゃっ……)

ピタリと左京に身体を寄せてしまい、桜子は固まる。

(て、て、手が……)

先ほど素肌の肩に触れられた時もドキッとしたが、ウエストを大きな手でホールドされ、互いの密着具合に桜子の身体は一気に火照った。

恥ずかしさのあまり、桜子は左京の背中に顔をうずめる。

しばらくして会話を終えた左京が、相手を見送ったあと、桜子を振り返った。

「大丈夫か?」
「……はい」

暑さでポーッとなった桜子は、目を潤ませて左京を見上げる。

左京は驚いたように動きを止めてから、桜子のウエストを抱いたままホールを出た。
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