ただの怖い夢だから
 深夜2時過ぎ。私はハッとして飛び起きた。
 心臓がバクバクと鳴っていて、額にはじっとりと冷や汗をかいている。
 ついさっきまで、とてもリアルで気持ちの悪い夢を見ていたからだ。

 最近、私はメッセージアプリで知り合った同い年の女の子と、毎晩、寝落ちするまでやり取りを続けるのが日課だった。
 学校では大人しくて目立たない私にとって、顔も本名も知らない彼女にだけは、不思議と素直な気持ちを打ち明けることができたから。

 夢の中で、私はスマートフォンの画面越しに、いつもより少し弾んだ彼女からのメッセージを見た。

『今ね、お家の前に着いたよ』
『ふふっ、玄関の鍵、開いてたよ』

 その楽しそうな文面の直後、一階から階段をゆっくりと上ってくる「ギシッ……ギシッ……」という足音が聞こえてきた。
 誰かが、私の家の中で、そして私の部屋に向かって上がってくる音。

 そこで、私はたまらず飛び起きたのだ。

 ――ピコンッ。

 手元にあるスマートフォンの画面がピカッと光って、短い通知音が鳴っている。
 送り主は、昨夜、寝る直前までメッセージをやり取りしていた彼女だった。

『寝るとき、ぬいぐるみと一緒に寝てるんだね。可愛いよね』

 その一文を見て、私の全身から一気に血の気が引いた。

 え、なんで?

 確かに、いつも私はベッドの上で、小学生の頃から大切にしているクマのぬいぐるみを抱きしめていた。
 けれど、私はクマのぬいぐるみの話なんて、これまで一度もしたことがない。

『水色のパジャマなんだね。似合ってるよ』
『お布団、めくれてるよ。風邪ひいちゃうよ?』

 嘘でしょ。
 私が今着ているのは間違いなく水色のパジャマだし、掛け布団は寝相のせいで足元にグシャッと丸まっている。今のこの部屋の中を見ていないと、絶対に書けない内容だ。

『……今、どこにいるの?』

 私が送信した瞬間、「既読」の文字がついた。

『ベッドの下』

 私が寝ているベッドの真下。私の背中のすぐ裏側から――。

「……ふふっ」

 絶対に私のものではない、押し殺したような女の子の笑い声が聞こえた。
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