零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
西回廊はさっきより静かだった。A班の影は柱の向こうに散り、B班はどこかでまた誰かと話しこんでいるらしい。C班は見えない。見張り二人だけが変わらず立っていて、その真ん中に校長室の扉があった。

九条の声が小さく落ちる。

「白鷺、今」

白鷺がすっと出た。

さっきまでの軽さが消えている。足取りは小さく、肩は控えめにすぼめ、書類を胸に抱える持ち方まで気弱そうだった。

「し、失礼します……!」

右の見張りが目だけで止めた。

「用件」

「生徒会書記の真砂先輩から、校長先生へ至急の書類を……っ」

真砂の名が出た瞬間、見張りの眉がわずかに動いた。効いた。

「預かる」

「す、すみません、それ、曲げると真砂先輩に怒鳴られるんで……!机上へそのままって言われてて……!」

「規則外だ」

「ですよね、でも真砂先輩が……!」

白鷺の声がほんとに泣きそうで、ちょっと腹が立つくらいうまかった。

九条が壁際で指を二本立てた。

二秒。

俺は火村の豆弾きを構えた。軽すぎて不安になるけど、狙う場所は見えていた。右から二枚目の高窓、その留め金の輪。

一秒。

引いた。

ぱちん、じゃなく、かつん、だった。小さなコルク弾が留め金を打って、輪が外れる。次の瞬間、夜気が押しこんできて高窓がわずかに開き、古いカーテンがふわりと膨らんだ。

左の見張りが反応して音の方向を探している。右もつられて視線を上げる。

「もしかして、外の見張りのミスで、校長室の窓を割って侵入されたか?」

そう言って、右の見張りは白鷺の書類を奪うみたいに受け取って、いら立った顔のまま扉を開けて校長室に入っていった。

「今」

九条の声と同時に、火村が床へ滑らせたゴムのくさびが校長室の扉の下に潜りこむ。
そのすき間に、大河内の手がぴたりと入った。

いや、手っていうか、もはや門止めだった。

重そうな扉が、ぎり、と一瞬だけ止まる。

「うわ、指!」

俺が思わず言うと、大河内は平然としていた。

「……平気」

「平気の基準がおかしい!」

九条に背中を押された。

「入れ、有馬」

俺、火村、九条の順で死角を滑る。その隙に大河内が扉をもうほんの少しだけ開き、全員で校長室内へするっと滑りこんだ。
入ると、見張りの先輩は後ろ向きで、書類を校長室の奥の書類入れに入れるところだった。その間に五人は校長室手前の応接セットに隠れる。

そして、先輩は出ていき、扉が閉まる。
< 37 / 72 >

この作品をシェア

pagetop