零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
石の階段は細くて、足音がやけに響いた。壁には丸い灯りが等間隔についていて、その上から金網がかぶせてある。天井には太い配管が何本も走り、ところどころで古い真鍮の案内板が光っていた。

『通信室』

『配管路』

『北抜路』

「抜路って何」

白鷺がひそひそ声で聞いた。

「抜け道だろうな」

九条が答えた。

「そのまんまだな」

「分かりやすいのはいいことだ」

「秘密通路の看板にしては親切すぎるだろ」

下りきった先の通路は、校舎の上とは別世界だった。床は石、壁はレンガ、ところどころに古い木の扉があって、取っ手だけが妙に磨かれている。少し湿っていて、金属と紙と油が混ざった変なにおいがした。

その奥から、かすかに人の声がした。

全員がぴたりと止まった。

「……誰かいる」

俺が言うと、白鷺が口元に指を立てた。今のこいつはふざけてない顔だった。

「通信室だね」

扉の脇に、古びた黒い札が出ていた。通信室。

九条が手で合図した。右へ回れ、低く、音を立てるな。

俺たちは扉のそばへ寄った。火村が、今にも蝶番を観察し始めそうな顔をしていたので、俺は先にその肩をつかんだ。

「今は見るだけ」

「分かってる」

扉は完全には閉まっていなかった。ほんの少しだけ隙間がある。そこから緑がかった灯りが漏れていて、誰かの低い声が流れてきた。

「……はい。資料は本物です」

その声を聞いた瞬間、全員の顔が変わった。

真砂先輩だった。
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