零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
「うわっ!」

「停電!?」

「違う、遮断だ!」

火村が叫ぶのと同時に、奥の非常灯だけが赤く点いた。真っ赤じゃない、古いランプの鈍い赤だった。その光の中で、真砂先輩の姿がぶれた。

机の黒い封筒が消える。

「逃げる!」

白鷺が飛び出した。

真砂先輩は通信室の脇の細い扉へ滑りこんでいた。札には『北抜路』と出ている。

「通信室にまで抜け道あるのかよ!」

「この学校は何でもありだ!」

俺たちはあとを追った。

北抜路は、さっきまでの通路よりさらに狭かった。天井が低く、配管が頭上を走っていて、壁には古い矢印が白く残っている。右へ行けば配電室、左へ行けば旧講堂裏、まっすぐ行けば搬入路。

「今ちょっとだけ楽しい!」

火村が走りながら言った。

「お前は楽しくなる基準を見直せ!」

「前!」

九条の声が飛んだ。

前を走る真砂先輩が、壁のレバーを引いたのが見えた。

「まず――」

言い切る前に、頭上から重い鉄の音が落ちてきた。

鋼の防火シャッターだった。

「うわっ!」

白鷺と火村が、その向こう側にいた。白鷺はぎりぎり抜けたけど、火村の鞄の肩紐がシャッターのレールに引っかかった。

「待っ、ちょ、ちょっと待って待って待って!」

「火村!」

白鷺が引っぱる。火村は半分しゃがみこんだまま、鞄ごと引きずられていた。シャッターは容赦なく下りてくる。

その向こう、狭くなっていく隙間のさらに先で、真砂先輩の肩が見えた。

撃てる、と思った。

いや、正確には、当てられると思った。

火村の鞄から、いつの間にか飛び出していた小さな輪ゴム式の射出器――豆弾きが床に転がっていた。俺は反射でそれを拾った。

「有馬!」

火村が叫んだ。

「右!上の真鍮の輪っか!」

シャッターの脇、壁の高い位置に、小さな真鍮の輪がぶら下がっていた。『非常停止』の札。

真砂先輩の背中は、もっと大きく見えていた。

でも、俺が狙うべきはそっちじゃなかった。
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