零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
通信室へ戻ると、赤い非常灯の下で、さっきの部屋がますます古びて見えた。壁の交換台にはまだ小さなランプが二つ生きていて、紙テープの端が機械から垂れている。

火村が真っ先にそっちへ飛んだ。

「打電紙!残ってる!」

白鷺は壁の地図を見ていた。

「うわ、町の地図まである。ほんとにスパイ学校だなあ」

「今さらだろ」

俺は机の上を見た。受話器の脇に、メモ帳が置いてある。上の紙ははがされていたけど、次の紙にうっすら跡が残っていた。

「九条」

「何だ」

「ここ、書いた跡ある」

九条がすぐ来た。火村は機械の横から鉛筆を一本引っぱり出してきた。

「こすれば出る」

「お前、そういうのだけは仕事が早いな」

「そういうのだけ、とは?」

火村が紙の上を鉛筆の腹でこすると、白い紙の上に、沈んでいた文字がじわっと浮かび上がった。

『受渡 明日』

『さくら祭り』

『川沿い時計台裏』

『十時』

全員が黙った。

「うわ」

最初に言ったのは白鷺だった。

「うわ、具体的」

火村が打電紙をつまみ上げる。

「こっちも同じだ。短く打ってある」

九条がそれを受け取って、目だけで読んだ。

「間違いない。受け渡しは明日、町のさくら祭り、川沿い時計台裏、十時」

俺の頭の中に、入学式の日に駅から学園へ来る途中で見たポスターが浮かんだ。坂の下の町じゅうに貼ってあった、桜だらけの派手なやつだ。

『第七十三回 鷹ノ宮さくら祭り』

そして、通信室の壁にも同じ祭りのポスターが貼ってあった。右下、川沿いの時計台に、赤鉛筆で丸がついている。

「よりによって人混みのど真ん中かよ……」

俺が言うと、九条がうなずいた。

「だから選んだんだろう」

白鷺がポスターと打電紙を見比べながら言った。

「いやあ、明日の祭り、屋台とか言ってる場合じゃなくなったね」

火村がぼそっと言った。

「りんご飴くらいなら」

「そこじゃない!」

俺と九条の声が、またきれいに重なった。

白鷺が肩を震わせる。

「はいはい、最悪の一致」

大河内が、赤い丸のついた時計台を見たまま言った。

「……行くんだな」

俺はうなずいた。

「行く」

真砂先輩は逃げた。

でも、逃げた先の約束は残していった。

学園の地下にある古い通信室で、俺たちは模範生の本音と、明日の待ち合わせ場所を拾った。

机の上の打電紙には、はっきりこう残っていた。

『受渡 明日 さくら祭り 川沿い時計台裏』

真砂先輩と次にぶつかる場所は、もう分かっていた。

明日が決戦だと、俺たちははっきり分かった。
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