破天荒ガール、世界を殴る。〜聖剣強奪!女の子を泣かせた奴は全員ぶっ飛ばす〜

【第9話:その胃袋ごと、カラメルの代わりに闇の深淵へ沈めてやろう】

【第9話:その胃袋ごと、カラメルの代わりに闇の深淵へ沈めてやろう】


「ふぅ……今日の〝素手による大地の浄化〟も完璧だった」

​夕闇が魔王城を包み込む頃、アレスは全身泥だらけで、しかしどこか満足げな表情で廊下を歩いていた。

「魔王様も、僕のこの献身的な働きにはきっと驚かれるはずだ」

『ただの草むしりね』

​額の汗を拭ったアレスの鼻を、ふわりと甘い香りがくすぐった。
吸い寄せられるように辿り着いた先は、静まり返った厨房。その中央にある冷却魔法が施された銀の台座に、〝それ〟は鎮座していた。

「な……なんだ、この輝きは……!」

​それは、闇の深淵のようなカラメルを冠し、滑らかな曲線を描く黄金色の塊――〝プリン〟だった。
それも、見たこともないほどの輝きで、皿を揺らすだけでプルプルと小刻みに震え、アレスを誘惑している。

「……はっ!そうか、これは魔王様からの粋な計らいに違いない!厳しい修行を終えた僕への、名もなき報酬なんだ!」

『嫌な予感しかしないんだけど』

​空腹と期待で理性が飛んだアレスは、スプーンも使わず、その皿を両手で掴み上げた。

「いただきます!……むぐっ!?な、なんだこの濃厚さは!舌の上で闇の魔力がとろけるようだ!」

​魔界の深淵でしか採れない希少な鳥の卵と蜂蜜。そんな超高級素材の結晶を、アレスは野良犬のように一気に、最後の一滴まで舐めとってしまった。

「ふぅ……。ごちそうさまでした。さあ、魔王様に感謝の報告をして――」

「……アレス。お前、そこで何をしている」

振り返ると、そこには服の襟元を少し緩め、珍しく〝今から至福の時間を過ごすぞ〟という緩んだオーラを纏ったユピテルが立っていた。

「あ、魔王様!ちょうど良かったです!あの報酬の〝黄色い塊〟、最高でした!元気がみなぎって――」

「……報酬?黄色い塊だと?」

​ユピテルの視線が、アレスが持っている〝空っぽになった銀の皿〟に落ちた。その瞬間、城全体の温度が急速に氷点下まで下がった。

「……まさか、食べたのか?私が三日前から熟成させ、今日の激務の後に食べるのを唯一の楽しみにしていた、〝魔界絶滅危惧種の卵プリン〟を……」

「えっ。あ、ええと……魔王様用、だったんですか……?」

『逃げなさい、今すぐ』

​魔王の背後から、黒い霧のような魔力が立ち昇る。表情こそ崩さないが、瞳の奥には怒りが渦巻いていた。

「……あれは、私が三日前から楽しみにしていた〝至高〟の特製プリンだぞ。それを一口で……」

ユピテルの細い指が、みしり、と壁を掴んで粉砕する。

「……万死に値する。その胃袋ごと、カラメルの代わりに闇の深淵へ沈めてやろう」

『ほ、ほ、本気よこれ』

「ひっ……ひぃぃぃ!申し訳ありません!悪気はなかったんです、ただのご褒美だと勘違いして――」

「……逃げるな。その胃袋を切り裂いて、中身を返してもらう」

​ユピテルがゆっくりと手をかざすと、厨房の調理器具がガタガタと震え出し、アレスに向かって飛んでくる。

「うわあああ!ごめんなさいいいい!修行!修行に行ってきますからーーッ!」

​アレスはサタンブレイドを抱え、文字通り脱兎のごとく城の外へと走り出した。

『私も道連れーー!?』

​背後からは、魔王の「アレス……絶対に許さんぞ……!」という、世界を滅ぼしかねない怨念に満ちた声がいつまでも響いていた。

月明かりの下、アレスは涙目で荒野を爆走し、そのまま夜通し〝自主的な特訓〟に明け暮れることになった。




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