空は風に恋をした

6話 風が止まった夜

出発ロビーに、ざわめきが広がっていた。

「本日最終便は、機材トラブルのため欠航となります――」

アナウンスが繰り返される。

颯太は小さく息を吐いた。

「まじか……」

スマホを見ても、代替便は出ていない。

明日の便に振り替えになるらしい。

仕方ない。

そう思いながら、視線を上げた時だった。

「あ……」

少し離れたところに、見覚えのある姿。

美空だった。

同じように、状況を確認しているらしい。

ふと、目が合う。

一瞬だけ、驚いた顔。

それから、少しだけ笑う。

颯太も、つられて笑った。

「欠航、ですか?」

「みたいですね」

美空は小さく肩をすくめる。

「私も、別便の予定だったんですけど……帰宅になりました」

少しだけ残念そうに笑う。

その空気が、やけに柔らかかった。

颯太は少しだけ考える。

そして。

「……このあと、時間ありますか」

自分でも少しだけ驚くくらい、自然に言葉が出た。

美空が瞬きをする。

「え?」

「もしよかったら」

少しだけ照れたように笑う。

「どこかで、時間潰しませんか」

一瞬の間。

それから、美空はふっと笑った。

「……はい」

小さく頷く。



空港内のカフェは、思っていたより静かだった。

二人は向かい合って座る。

まだ少し、ぎこちない。

でも、不思議と嫌じゃない。

他愛もない会話が、少しずつ続く。

その中で。

ふと、颯太が言った。

「空、好きなんですね」

美空は少しだけ驚いたように目を瞬かせて、それから笑った。

「はい。好きです」

ガラスの向こうに視線を向ける。

「小さい頃から、ずっと」

そして、少しだけ間があって。

「父が、航空整備士だったんです」

颯太は何も言わずに聞いている。

美空は少しだけ視線を落とす。

「パイロットになりたかったみたいなんですけど、視力が足りなくて」

少しだけ笑う。

「それで、整備士になったって」

誇らしそうでもあった。

でも。

次の言葉は、少しだけ静かになる。

「……中学生のときに、事故で亡くなって」

風が、二人の間を抜ける。

音が、少し遠くなる。

それでも。

美空は、そこで止まらなかった。

「正直、空なんて見たくないって思った時もありました」

小さく息を吐く。

「でも」

顔を上げる。

空を見る。

「父が好きだったもの、嫌いになりたくなくて」

少し照れたように笑う。

「だから、私も空の仕事、選びました」

その笑顔は、無理をしていなかった。

ちゃんと、自分で選んだ顔だった。

颯太は、その横顔を見ていた。

何も言わない。

でも。

目を逸らさなかった。



少しだけ、静かな時間が流れる。

美空は少し照れたように笑う。

「……なんか、すみません。急にこんな話」

颯太は首を横に振る。

「いや」

少しだけ間を置く。

「いい話、聞けました」

その言葉に、美空は少しだけ目を細める。

無理に励まさない。

でも、ちゃんと受け取ってくれる。

その距離が、心地よかった。



カフェを出る。

さっきより、少しだけ空気が変わっていた。

並んで歩く。

会話は少ない。

でも、不思議と気まずくない。

そろそろ別れる場所に近づく。

美空が足を少しだけ緩める。

「……あの」

颯太も立ち止まる。

少しだけ間。

美空が、少し迷ったように言う。

「また……会えますか」

その言葉に、颯太が少しだけ目を細める。

驚いたような、でも嬉しそうな表情。

「会いたいですか?」

少しだけ意地悪な聞き方。

でも、声はやわらかい。

美空は一瞬だけ戸惑って。

それから、小さく頷く。

「……はい」

颯太は、ふっと笑う。

「じゃあ」

スマホを取り出す。

「交換、します?」

その流れが、あまりにも自然だった。

美空も少しだけ笑って、スマホを取り出す。

「はい」

連絡先を交換する。

ほんの数秒。

でも。

その距離が、少しだけ近くなった気がした。

「……じゃあ、また」

「はい、また」

今度は、少しだけ違う“また”だった。
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