桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜

第15話 嵐の予感

「ただいまー」

玄関を開けると、人の気配はなかった。

帰り道でぽつぽつ降り始めていた雨も、まだ本降りにはなっていない。
強くなる前に帰ってこられて、少しほっとする。

濡れた髪を拭こうと、洗面所へ向かう。

ふと、リビングに灯りがついているのに気づいた。

のぞくと、隼人の後ろ姿が見える。

……帰ってたんだ。

声をかけようとして、足を止める。

テーブルの上には、昨日昌枝さんにもらった花。

隼人は花鋏を手に、茎を少しだけ切り揃えている。

無駄のない、静かな動き。

そのまま花瓶の水を替え、整えるように花を挿し直した。

ぽた、と水滴が落ちる。

隼人は軽く手首を振って、水を切った。

その仕草まで、なぜか無駄がなくて。

私は声をかけるのも忘れて、しばらくその背中を見ていた。

窓の外は、いつの間にか少し暗くなっていた。
雨雲のせいで、昼なのに部屋の灯りがやけに明るく見える。


気配に気づいた隼人が振り返る。


「た、ただいま」


目が合って、なぜか少し焦る。

「……ああ」

「花、手入れしてくれてるの?」

隼人は花鋏をそっとテーブルに置いた。

「……切っとかないと、すぐ弱る」

そう言って、花の向きを指先で少しだけ直す。

「……ありがとう」


会話が途切れ、リビングが静かになる。

なんだか落ち着かなくて、言葉を探す。

「えーと……」


隼人がすっと立ち上がる。

その視線が、私の顔に一度だけ触れた。


「……学校」


「え?」


「慣れたか」

一瞬、言葉に詰まる。

「……う、うん。大丈夫だよ」

隼人は小さく頷いた。

「……そうか」

……なんで、そんなこと。

少しだけ間があく。

「無理すんな」

それだけ言うと、隼人は何も続けなかった。
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