桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜

第17話 颯太の異変

颯太――。


「りあ……たん?」


初めて会った日のことは、今でも覚えている。
大きな目で、じっと私のことを見ていた。

六歳のときにできた、ひとつ下の弟。

私の名前を呼ぶ舌足らずな発音も、
後ろを一生懸命ついてくるところも、
すぐ泣くところも――全部、可愛かった。

それなのに……。


「なんで、こうなっちゃったんだろう……」


自分の部屋のベッドに寝転びながら、ぼんやり天井を見上げる。

停電のあの日から、一週間。

颯太の態度は、まだどこかよそよそしい。

朝は部活の朝練があるのか、ほとんど顔を合わせない。

というより……たぶん、避けられてる。

それに、たまに顔を合わせても様子がおかしい。

例えば、この前の夜ご飯の時――。


「颯太、醤油取って?」

「……」

隣に座る颯太に声をかけるも、返事がない。

「聞こえてるでしょ?」

「……」

完全に無視。

テーブルの向かいでは、敦兄と俊兄がじっと私たちを見ている。

「もういい」

自分で取ろうと、立ち上がろうとすると、

「ほら」

颯太の前に座っていた俊兄が、すっと醤油を差し出してくれた。

「ありがと」

受け取ったその時。


「……おまえはガキか」


反対隣から、低い声。

隼人が颯太を冷たい目で見ている。

颯太は何も言わない。

でも、ゆっくりと顔を上げて、隼人を見返した。
その目は、どこか刺すようだった。

私を挟んで、また妙な空気が流れる。

「もういいからっ。ほら、食べよ?」

慌ててそう言うと、隼人は小さく舌打ちして颯太から視線を外した。

その様子を見ていた敦兄が、軽い調子で口を挟む。

「はいはい隼人くん。カリカリしないの」

「してねえから」

「ほら、お兄様がトマト分けてあげるから。機嫌直しなさい」

そう言って、敦兄は自分の皿のトマトを隼人の皿へ移した。

「……お前の嫌いな食べ物押し付けてるだけだろ」

「人聞き悪いなー!」

大げさなリアクション。

「もう、あっちゃん。ちゃんとトマト食べなきゃダメだよ?」

「……はい」

敦兄はしょんぼりして、トマトを自分の皿に戻した。

その様子を見ていた俊兄が、ぼそっと言う。

「ガキはこいつだな」

「……あ?」

敦兄が俊兄を睨む。

一瞬、喧嘩の気配。

止めようと口を開きかけると、隣で椅子が引かれる音がした。

「……ご馳走様」

小さく呟いて、颯太が立ち上がる。

そのままダイニングを出ていった。

静かすぎる、その背中。

敦兄と俊兄が顔を見合わせる。

隣で、隼人が小さく息を吐いた。

私は、眉を下げたまま、その後ろ姿を見ていた。
< 74 / 77 >

この作品をシェア

pagetop