冷徹社長との出張一夜は溺愛の始まりでした
でも、違う。これは恋じゃない。

私は何度も自分に言い聞かせる。

圭太は私に感謝しているだけ。

役に立つ秘書だから、手放したくないだけ。

そこに、男女の意味なんてない。

「午後の会食ですが、先方が開始を三十分早めたいとのことです」

「問題ない。車の手配は」

「すでに変更済みです」

「さすがだな」

「ありがとうございます」

仕事の会話。それだけ。それだけなのに、褒められるたびに胸が痛い。

もっと別の言葉が欲しいと願ってしまう自分がいるから。

夜、自宅に戻ると、母から電話がかかってきた。

「由真、今大丈夫?」

「うん、大丈夫。どうしたの?」

「この前話した件、考えてくれた?」

私はソファに腰を下ろし、天井を見上げた。

来た、と思う。
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