クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
第一話 怪盗ムーンの秘密
「待ちなさい、怪盗ムーン!」
後ろから声が響いた瞬間、私は夜の校舎を全力で駆けだした。
今のは、誰の声? 先生? それとも……。
振り返る余裕なんてない。早く逃げなきゃ。
今は、絶対につかまるわけにはいかない。
ポケットの中には、取り戻したばかりのミサンガ。赤と青と黄色の糸で編まれた、莉奈先輩の宝物だ。
あと少し、もう少し。逃げ切れば、今夜の任務は成功だ。
私は角を曲がり、古い物置の影に滑り込んだ。
足音が廊下を走り過ぎる。急いでいるのか、こちらには気づかなかったみたい。
ふう……。
私は冷たい壁に背をつけて、息を整えた。忍ばせていたミサンガが、指先に触れた。やっと取り戻せた。
胸のドキドキはまだ続いているけれど、それよりも深いところから、じわじわと満ち足りた気持ちが広がっていく。
そのとき、ふと頭をよぎった。
あの転校生が来るまでは──私の秘密は、完璧に守られていたはずだったのに。
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