クラスの透明人間は、夜を駆ける怪盗でした
九月二十一日、土曜日の早朝。
まだ誰もいない校舎。朝の光が、廊下を淡く照らしている。
部室のドアを開けると、相馬先輩が待っていた。私服姿で、緊張した面持ち。
「七瀬さん……」
「おはようございます」
私はカバンからリボンを出す。
受け取った先輩の指が、縫い目の上をなぞった。
「ちゃんと……繋がってる」
「きれいじゃないですけど」
先輩は首を横に振る。
「すごいよ、七瀬さん」
リボンを胸に抱きしめた先輩は、しばらくそのままでいた。
「ひなのに、渡してくる」
「はい」
「試合のあと、ちゃんと謝る。言葉になるかわからないけど……それでも」
「大丈夫です。きっと、うまくいきますよ」
先輩は少し目を丸くして、それからふっと笑った。
「うん。そうだね」
*
私は新体操部の試合を、客席から見ていた。
試合の間、ひなのちゃんのリボンが何度も空を舞った。くるくると弧を描いて、照明を受けてきらめくたびに、星のチャームが小さくまたたいた。
縫い目がほどけることも、チャームが外れることもなかった。お母さんのリボンは、ひなのちゃんの演技をしっかりと支えていた。
そして、夕方。試合が終わったあとの体育館。
相馬先輩が、ひなのちゃんに近づく。
みんなが帰っていくなか、私は入口近くの陰から二人の様子を見ていた。