The One
冷房の効いた教室は天国だった。
黒板には出席名簿と、今日の学習内容が記載されていた。
「え…」
今日の補習私一人だけ?!
時計を見上げると、まだ30分以上余裕はある。
ガラッ
突然ドアが勢いよく開いて、私は驚きすぎて立ち上がった。
「お、おはよう…早いな」
「おはようございます…」
静か過ぎる教室。
コツコツと先生が近付いてくる音がやけに耳に響く。心臓の音が先生にまで聞こえてしまうんじゃないかと不安になるくらい。
「綾瀬奈桜。現代文26点…ふーん?」
資料を見ながら教台に肘をついて、ブツブツ話している先生をじっと見つめる。
その姿だけでも、尊い。
光り輝いて見える。
「綾瀬、みっちりやるからな」
「はい…」
ダメだ。頬が緩む。恥ずかしい事なのに、最高の補習だと思ってしまう。
先生と2人きりだなんて聞いてない。
プリントを私の机に置いて、先生は隣の席に座った。
先生が物凄く近い。どうしよう、緊張しすぎてペンを持つ手が震える。
「分からないところは、遠慮なく聞いて?」
「は、はい」
心臓が早鐘のように打つ。
好きじゃない
好きじゃない
好きじゃない
おまじないのように何度も唱える。
でも、先生の目が私を追う度に、息が詰まりそうで。
「ここ、なんでこうなるか分かる?」
指でプリントの文章を指す先生の手が、私の手元に触れそうで触れない。
「分からない、です」
「うん、素直でよろしい。ここは…」
先生は小さく微笑んで、丁寧に説明してくれた。甘くて胸の奥がじんわり痛い。
こんなに贅沢な時間があっていいのかな。
「また明日な」
「ありがとうございました」
“また明日”って、なんてすごく幸せな言葉なんだろう…
こんな毎日がずっと続けばいいのに。
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