The One
文化祭当日。
朝から校内は、いつもとは比べ物にならないくらい賑わっていた。
飾り付けられた廊下、
楽しそうに笑う生徒達、
あちこちから聞こえてくる呼び込みの声。
——本当なら、私もあの中で楽しむ側だったのに。
「綾瀬!次、ステージ転換5分押し!」
「えっ、うそ!」
現実は、そんな余裕なんてない。
手元のタイムスケジュールと無線を見ながら、
次の指示を飛ばす。
「3組、準備急いでもらってください!」
バタバタと走り回る。
暑い。
忙しい。
でも——
「……綾瀬」
その声が聞こえた瞬間、全部がどうでもよくなる。
振り向くと、小幡先生が立っていた。
「今の判断、よかった」
短く、それだけ。
それだけなのに。
「……ありがとうございます」
一瞬で疲れが吹き飛ぶ。
「無理すんなよ」
低い声。
その言葉に、ほんの少しだけ救われる。
「はい」
それだけ返して、また走り出す。
それ以上は、話せない。
周りに人がいるから。
でも——
すれ違うたびに、視線が合う。
ほんの一瞬だけ。
それだけで、伝わる。
——見てくれてる。
それだけで、頑張れる。
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