The One

「……行くぞ」



先生の背中を追いかける。

さっきまでよりも、少しだけ距離が近いまま。

——このあと、2人きりの車内。

そう思っただけで、
心臓の音が止まらなかった。



静かな校舎を出て、先生の車に乗り込む。

ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。

——2人きり。

逃げ場のない距離。

エンジンがかかる。

低い振動が、身体に伝わる。


「……シートベルト」

「……あ、はい」

慌てて手を伸ばすと、


「ほら」

カチッ

先生が先に留めた。


「……え」

すぐ近くにある顔。

距離が、近すぎる。

先生の柔軟剤の匂いが、ふわっと広がる。



「……顔、真っ赤」

くすっと笑う声。


「……先生のせいです」

小さく言い返すと、


「可愛いな」

って、少しだけ低く笑った。

そのまま車は、ゆっくりと走り出す。

窓の外に流れる夜の景色。

なのに——

意識は全部、隣に持っていかれてる。


.
< 32 / 58 >

この作品をシェア

pagetop