The One
一瞬だけ、言葉を切って。
「笑って」
少し強引で、でも優しい言い方。
思わず、小さく笑ってしまう。
「……はい」
やっと、ちゃんと答えられた気がした。
その瞬間——
そっと、額にキスが落ちる。
先生は少しだけ照れたみたいに視線を逸らして、
「……今はこれで、我慢しとく」
小さく呟いた。
胸が、一気に熱くなる。
ずるい。
最後まで、ずるい。
「……私も、これで我慢します」
小さく呟くと、先生が少しだけ笑う。
もう一度だけ、ぎゅっと抱きしめられる。
今度こそ、本当に最後みたいに。
「行ってらっしゃい」
耳元で、低く落ちる声。
その一言に、背中を押される。
ゆっくりと、腕が離れる。
手が、離れる。
温もりが、消えていく。
でも——
もう、さっきとは違う。
一歩、踏み出す。
振り返る。
先生は、ちゃんとそこにいる。
さっきと同じ場所で、
優しい顔で、こっちを見てる。
私は、小さく手を振った。
先生も、小さく手を上げる。
それだけで、十分だった。
離れる。
でも——
これは、終わりじゃない。
約束で繋がった、はじまり。
そう思えた。
だからちゃんと、前を向いて歩くんだ。
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