実験動物
 僕は実験動物だ。
 舞台は東京に似た広大な土地で、人は誰もいない。
 そんな法も秩序も他人もいない状態で、人間がどう過ごすのか実証データを取るために僕は生かされている。
「今日はここにしよう」
 適当なファミレスを見つけた。実験動物ではあるが、日々の食糧の配給すらない。そのため誰もいないコンビニやファミレスから食べ物を拝借する。
 もちろん、そんな状態でも尊厳を失うわけにはいかない。
 自分一人で出来ることなどたかが知れているが、なるべく倫理的に正しそうな行いを選んでいるつもりだ。
 そんなことを積み重ねても、何の意味もないかもしれないが。
 いや違う、きっとこれは研究なんだ。僕は憐れにも一人でこの世界を生きるシミュレーションに選ばれてしまっただけなんだ。
 僕はファミレスのハンバーグと、まだ腐っていない卵をいくつか使ってちょっと豪華なハンバーグ定食を作った。
 僕は無作為に選出されたせいか、科学者の姿を見たことはない。きっとこの地の果てまで行けば壁か何かに当たるはずだ。
 食べ終わってからお金を払う。さらに店の掃除をしてレジからお金をいただく。これでトントンだろう。誰から言われたわけではないが、これが正しい行いだと思う。誰もいないからといって自分勝手に振る舞っては、科学者にどんな風に書かれてしまうか分からない。
 人間はあくまで高潔なんだぞ、と示し続けなければならないと思う。善行を積んだほうが外に出られそうな気がするし。
 ファミレスから出る。空は曇り空でよく見えない。選ばれた日からずっと曇り空だ。太陽など見えない。
 改めてリュックサックを背負い直して道をまっすぐ進む。道路には人のいない車が放置されていたり、自転車が倒れていたりと生活していたあとだけが残っている。
 まるで、世界で一人きりみたいな。
 頭をふって歩き続ける。違う違う。これはただの実験なのだ。科学の犠牲になった憐れな一般人なのだ。
 そうであってほしい。科学者がどこからかにやにや観察していて、この人間は誰もいないのに善行を積んでいるとか、泥棒らしき行いをしないとか、そんなことを言い合ってレポートなんかに書いているのだ。
 早く、科学者たちが出てきてほしい。じゃないと僕はこの惑星にたった一人残されてしまったことになる!
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop