青春はスクリーンの手前に
本編
 ーー私はずっと、“観る専”だった。
 だから、この話もどこか他人事みたいに聞いていた。



「えー…なので、文化祭で上映する短編映画ですが今年も例年通り部内選考で脚本をーーー」


 身体にまとわりつくような7月の空気を、ハンディファンでどうにかやり過ごしながら、ぼんやりと説明を聞いた。

 喋っているのは映像研究部の部長、高梨(たかなし)先輩。
 淡々と話しているその首元にもまた、小型のファンがぶら下がっている。

「どーする?」
「いやいや無理っしょ、“アイツ”いるし」

 後ろから聞こえたそんな会話。
 その瞬間、皆が同じ人物に視線を向けただろう。

 当の本人は、机に突っ伏せたままーー微動だにしない。

 私はふと他の部員に目を向けた。
 鞄にはアニメキャラクターのアクリルキーホルダー、映画オリジナルのスマホカバー、顔を仰ぐ下敷きすら映画グッズの子もいる。
 …そういう部活だ。

 そして新入部員の挨拶で一番多いのがこれ。

「文化祭の映画制作に興味があります!」

 ここにいる以上、私も例外ではない。
 ただし、作る側ではない。観る専門。

 大ヒット作品は当然面白いけど、自主制作映画を観るのも結構好きだ。
 将来、もしかしたら本当に映画を作るかもしれない人たちの、拙くて、でも妙に真剣な作品。


「……ということなので、部内選考に参加する人は脚本を夏休み前までに私に提出して下さい。以上。お疲れさまでした」

 ようやくエアコンが冷たい風を送り始めた頃、高梨先輩がそう締めくくった。

 シャキッと挨拶をした高梨先輩をよそに、部員たちは「かれしたー」と適当な挨拶を口にしながらぞろぞろと席を立つ。

 今日はミーティングだけの日。
 集まってから解散まで15分程度だった。

 毎週月曜日はいつもこんな感じ。
 運動部ではないけれど、一応オフの日。
 文化部だって休みたい時はある。

 私も軽く頭を下げてリュックを背負い席を立った。

 去年の文化祭で上映した短編映画はホラーとまではいかないけれどその類だった。
 身近で起きた不思議な出来事をテーマにした作品。

 撮影に使われた空き教室や音楽室を通るたびに映像が過ぎって半年くらいは怖かったのを覚えている。
 今年はどんな作品が上映されるんだろう。

「ねえ」

 何も仕事が回ってこないといいな、なんて思いながら廊下を歩く。

楠木(くすのき)さん」

 私は“観る専”部員なんだから。

「楠木さんて」

 唐突にリュックを引っ張られ、うわ、と小さく声がもれた。
 後ろによろけたけれど、掴まれたリュックのおかげて倒れずに済んだ。

 そして、ようやく呼ばれた名前が脳まで届く。

「…え?呼んでた?」

「呼んでた。何度か」

 トン、とリュックの重みが肩に戻ってくる。

 (ひいらぎ) 蒼一郎(そういちろう)
 同じく映像研究部の2年生。
 さっき部員に“アイツ”と呼ばれていた人。
 クラスも同じだけど、話したことはほぼ無い。

 でも彼がどんな生徒か、説明はできる。

 ごく限られた数人と行動を共にし、
休み時間は本を読んでいるか、スマホをジッと見ている。
 たまにタブレットで何か作業をしていたり。
 話しかける隙は一切ない。

 少しクセのある髪は無造作だけど、制服はきちんと着てるし、上履きも踵まで履いている。

 近寄り難い雰囲気も相まって、遠くから見つめている女子生徒も、多い。

「ご、ごめん、考えごとしてて……どうしたの?」

 軽く跳ねるようにリュックの居心地を整えて、聞く。

「落とし物。ん」

 スッと伸びてきた手元に視線を落とした。

「え……あっ?!」

 差し出されのは、私が中学の頃から映画の分析をして好きなように書き留めたノート。

 その表紙には、でかでかと『映画ノート』と書いてある。
 自分の内側が丸出しのような、自分だけの…他人には絶対に見られたくない物だった。

 私は慌てて柊くんの手からノートを奪い取ると、ノートを抱え半身になる。


「………見た?」

 柊くんは窓の外に視線を向け「いや」と即答した。

 その口元は、わずかに笑っている。
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