正しくない恋のはじまり
ズキッと頭が痛くなって、額を押さえて小さく息をつく。
私はパソコンの画面を保存せずに閉じた。
…だめ。考えるな。いまは、仕事をする。
「藤井さん」
名前を呼ばれて、まだ額を押さえたまま顔を上げると、総務の男性がこちらを見ていた。
慌てて「はい」と返事をすると、彼がちらりと背後に視線を送る。
奥にある、ガラス張りの半個室の部長室だ。
「部長がお呼びです」
その一言で、心臓が一度だけ強く跳ねた。
反射みたいに、「今、何かやらかしたか」を探してしまう。
でも、思い当たるものは出てこない。
出てこないのに、 胸の奥だけが、じわじわと冷えていく。
「……今、ですか?」
自分でも驚くくらい、声が少しだけ硬い。
「はい。そうおっしゃってましたよ」
総務の彼はそれ以上何も言わずに、小さくうなずいた。すぐに行かなければならない。
逃げ道を塞ぐみたいな、静かな肯定だった。
「…分かりました」
立ち上がると、キャスターの音が頭に響いた。
足取りだけがやけに重い。
周りの音が、少し遠くなる。
通路を歩くたびに、現実が薄くなるような感覚。
私はパソコンの画面を保存せずに閉じた。
…だめ。考えるな。いまは、仕事をする。
「藤井さん」
名前を呼ばれて、まだ額を押さえたまま顔を上げると、総務の男性がこちらを見ていた。
慌てて「はい」と返事をすると、彼がちらりと背後に視線を送る。
奥にある、ガラス張りの半個室の部長室だ。
「部長がお呼びです」
その一言で、心臓が一度だけ強く跳ねた。
反射みたいに、「今、何かやらかしたか」を探してしまう。
でも、思い当たるものは出てこない。
出てこないのに、 胸の奥だけが、じわじわと冷えていく。
「……今、ですか?」
自分でも驚くくらい、声が少しだけ硬い。
「はい。そうおっしゃってましたよ」
総務の彼はそれ以上何も言わずに、小さくうなずいた。すぐに行かなければならない。
逃げ道を塞ぐみたいな、静かな肯定だった。
「…分かりました」
立ち上がると、キャスターの音が頭に響いた。
足取りだけがやけに重い。
周りの音が、少し遠くなる。
通路を歩くたびに、現実が薄くなるような感覚。