三途の川の河原は、どこまでも灰色の礫が広がる、最悪にエモくない場所だった。

「…なぁ、なんで象に踏まれてグチャって死ななあかんねん」

詐欺師コンビの在山と無無は、死んでなお言い争っていた。彼らの生業は、架空の象を売りつける「象ウルウル詐欺」。だが実際は、その大元であるフランチャイズ本部に騙され、多額の契約金を絞り取られた挙句、事務所に捨てられた本物の象に踏み潰されるという、自業自得すぎる最期を遂げたのだ。

審判の列を前に怯える二人の前に、男が現れた。無表情で抑揚のない声。名は「闇売」。
「天国へのジャッジが生前の善悪で決まるなんて、誰が言いました?」 闇売は二人の肩を、一定のリズムでポンポンと叩く。 「来世を穏やかに過ごしてほしいから、あちら様は『闇』を抱えた人ほど優先的に天国へ送るんですよ」

「闇基準…」と無無が絶句する。 詐欺をしたのはなんとなく、彼らには闇がなかった。「闇がないと地獄行きですよ」、焦った二人は、闇売の提案に乗る。生前の「良い行い」を寄付する代わりに、心に「闇エピソード」を注入してもらうという怪しい等価交換だ。
闇売はサイコロを取り出し、ゲーム感覚で二人の善行を吸い上げていった。些細な、数少ない善行が奪われるたび、指先から何かが抜けていく感覚があった。

「注入完了です。これで天国は確実だ」 闇売の冷たい笑みを背に、二人は自信満々で審判所へ向かった。しかし、担当官の反応は意外なものだった。 「おかしいな。善行が、ひとつも記録されていない」

「えっ? 闇があれば天国って…」 「何の話だ? 審査はあくまで『生前の善行』で行う。君たちは空っぽだ」
二人は凍りついた。闇売は審判所の職員でも何でもない。死者の善行を「緑化資源」として奪う、三途の川の詐欺師だったのだ。 「詐欺師が、死んでまで詐欺られるなんて…」 脱力してへたり込む二人の頭上に、巨大な影が差した。

「…あ。みどりが溢れてる」 在山が遠くを見た。彼らの善行を肥料にして、灰色の世界に歪な緑が芽吹いている。そしてその奥から、生前自分たちを押し潰した「あの象」が、山のような巨体となって現れた。
黄金に輝く巨大な足が、ゆっくりと振り下ろされる。 「やべっ」 「マジか」 二人の悲鳴が響く。今度こそ本当の終焉か、あるいは新たな「象の時代」の幕開けか。 それを知る者は、もうこの世にはいない。

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