黒瀬部長は部下を溺愛したい

CASE:36 俺が好きな人、知ってる?



 気づけば慧の胸の中。

「慧さん……!?」
「比べる必要はない」

 耳元で低い声が落ちる。

「俺が好きなのは莉央だから」

 はっきりと言葉にしてくれる。

「で、も……」
「あいつはもう過去のことだ」

 きっぱりと言い切る。
 そのあと、莉央の頬を指先で撫でた。

「今も、この先も……隣にいてほしいのは莉央だけだから」

 真っ直ぐな目。
 ずるい。
 こんなの、嬉しいに決まってる。

「……っ」
「泣くな」
「泣いてません……」
「可愛い顔ぐしゃぐしゃ」
 
 ふっと笑って、額にキスされる。
 人通りの少ない夜道。
 誰も見ていないのを確認してから、慧は小さく息を吐いた。

「……正直」
「?」
「嫉妬してる莉央はかなり可愛かった」
「……最低です」
「知ってる」

 でも嬉しそうに笑うから……。

「もうっ……本気で落ち込んでたのに」
「悪かった」

 全然悪いと思ってなさそうな声。
 でも次の瞬間。
 大きな手が莉央の頭を優しく撫でた。

「そんな顔するな」
 
 さっきまでの意地悪そうな笑みは消えていて……。
 その目は、私だけを見る恋人の顔だった。

「……莉央」

 甘く呼ばれる。
 優しく頬を撫でられる。

「俺、莉央が思ってるよりずっと余裕ないから」
「え?」
「あいつが来るって聞いた時も……」
 
 慧は少し苦笑しながら。

「莉央が気にするだろうなと思った」
「じゃあ最初から言ってくださいよ……」
「言ったら余計考えるだろ」
「それは……」

 否定できない。
 すると慧は莉央の額に自分の額を軽く当てた。
 距離が近い。
 心臓がまたうるさくなる。

「俺が好きな人、知ってる?」
「え……」
「答えて」
「………わ、私」
「誰の彼女?」
「……慧さんの」
「うん」

 莉央の答えに満足そうに笑う。
 子供みたい。

「慧さん」
「ん?」
「確認しすぎです」
「何回でも聞きたい」
 
 さらっと言う。
 本当にこの人は。
 会社で見せる姿と違いすぎる。

「好きだからな」

 耳元で囁かれる。
 反則だ。

「……私も好きです」

 小さく答えると。
 目がふっと細くなった。
 その顔が好きだと思う。
 私だけに見せてくれる顔だから。
 
「莉央」
「はい」
「今日はこのまま帰したくない」

 低いくてどこか甘えるみたいな響き。

「え?」
「嫉妬して、不安になって。頑張って平気な顔してたんだろ」

 見抜かれていた。
 全部。

「だから」

 そっと肩を抱き寄せられる。

「今日はいっぱい甘やかさせろ」

 優しく髪にキスが落ちる。

「俺の彼女は世界一可愛いから」

 そんなことを真顔で言うから。
 結局莉央は。
 顔を真っ赤にしたまま、慧の胸に隠れるしかなかった。
 その頭を撫でながら。
 慧は、誰より幸せそうに笑っていた。

To be continued
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