黒瀬部長は部下を溺愛したい

CASE:8 何もなかった……はず



 翌日。

(……うーん、頭が痛い……)

 目覚めた瞬間、軽い二日酔いと共に、ふとよぎる昨晩の帰り道。

(そういえば、黒瀬部長が送ってくれたんだっけ……)

 ベンチに座っていたことまではなんとなく覚えている。でも……その後、どうなったっけ……?

(……いや、でもまぁ、特に何もなかった……はず)

 そんなモヤモヤした気持ちを引きずったまま、会社へ。昼休み、給湯室でばったり慧と遭遇。

「白石、体調どうだ?」
「えっ、あっ……えっと、はい! 元気です! あの、昨日は……すみませんでした……」
「謝らなくていい。いいもん見れたし」
「……え、いいもん?!」
「うん。初めて聞いた」
「……え? な、なにか言ってました……私?」
「ふっ……」

 その笑い方が、明らかに何かを知っている余裕のある男のそれで……莉央の心臓が、バクンッと跳ねる。

「『最初は怖かったけど』って」
「!!?」
「『すっごく優しくて、ちゃんと人を見てて……』って」
「わああああ!! ちょ、ちょっと待ってくださいそれ以上は!!」

 莉央は耳まで真っ赤。動揺しながらお茶を入れようとして、スプーンを落とす。

「危ない」

 さっと拾ってくれる慧。その指先が、莉央の手に軽く触れる。

「……なぁ、白石」
「は、はいっ……!」

 緊張の面持ちをした莉央に慧は……。

「………いや、なんでもない。次のプレゼン、頑張ろうな」
「はい! 頑張ります!」

To be continued
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