『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 航生は覗き込むようにして紗月の頬へ指先を伸ばし、確かめるようにそっと滑らせた。

「そうだな。触り心地がいい」

 自分から主張したものの、この整った顔でまじまじと見つめられると、なんだか恥ずかしくなる。こちらの照れを察したのか、航生は口の端をわずかに上げ、さらに顔を近づけてきた。

「どうかしましたか? 奥さん」

「いえ、今日も旦那様の顔がかっこいいと思いまして」

 誤魔化すように、けれど本心を伝える。すると航生はわずかに複雑な表情を浮かべた。

「自分ではあまりそうは思えないんだけどね」

 謙遜している様子はない。薄々感じていたが、誰もが振り返るほど整った容姿を持ちながら、航生は自分の顔がそれほど好きではないらしい。

(こんなに、かっこいいのにな)

 紗月は手を伸ばして彼の頬の輪郭をなぞる。こうやって見ると彼の口角の上のホクロは高校のときより薄くなっている気がした。

「お母さんゆずりの、綺麗な顔立ち。私は大好きだよ」

 その言葉に、航生は息を止めたように目を見開き――すぐに、胸の奥までほどけたような、柔らかな笑顔になった。

「君がそう言ってくれるなら、好きになれそうだ」
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