『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『島君のお母さんだったんですね。私同じクラスの永井紗月っていいます』

 挨拶すると、航生の母は嬉しそうに顔を綻ばせる。

『まぁ、すごい偶然ね。ねぇ航生。永井さんはふらつく私を助けてくれたのよ』

『いえ、たまたま気づいただけで』

『航生のクラスメイトにこんな優しい子がいるなんて、嬉しいわね。今日はお見舞い?』

 妹が軽い骨折で入院していると説明すると航生の母は『あら、お気の毒に』と顔を曇らせる。

 さらに話を続けようとする母に、航生は軽くため息をついた。

『もういいだろ、病室に戻ろう。永井、ありがとう。じゃあ』

『う、うん』

 無理やり会話を切り上げた航生は『もっとお話ししたかったのに』と渋る母を立ち上がらせ、寄り添うようにその場を立ち去った。

(島君のお母さん、入院してたんだ)

 母を支えながら歩くその後姿は、いつもどおりの猫背なのに少し頼もしく見えた。


 病院を出た紗月は学校に立ち寄り、自習室として開放されている空き教室で勉強していた。

(うぅ、この数式、全然わからない……)
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