『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『最初からここをxに置き換えれば簡単になる』

 差し出されたノートには流れるような綺麗な文字が並んでいて、問題の一部に丸が囲んであった。慌てて参考書の答えのページを確認する。

(嘘、合ってる。ちょっと待って、そもそも問題もちらっと見ただけだよね)

 航生は一瞬見ただけの問題をノートに書き写し、紗月が三十分悩んでも解けなかった数式を魔法のように解いてしまったのだ。

『え、島君すごくない⁉』

 思わず興奮して紗月は声を上げる。

『……別に、数学は少し得意なだけ』

 ふいっと顔を逸らす航生。いつも物静かであまり感情を表に出さないクラスメイトの意外な一面を見つけた気がして紗月はなんだか嬉しくなった。

『俺はもう帰るから』

 下を向いたままそそくさとノートを片付けようとする航生に、紗月は思い切って声を掛ける。

『島君! 私に数学、数列だけでもいいから教えてくれない?』

 紗月の躓いた箇所をすぐに当てて見せるほどの実力があるなら、教えるのもお手の物だろう。紗月は座ったまま椅子をずらして彼に向き直った。

『でも……』

『もちろん、島君の都合のいいときだけでいいから』
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