『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 声を掛けても航生は聞く耳を持たずに進んでいく。ビルのエリアから歩道に差し掛かろうとしたとき、堪えきれなくなった紗月は思い切り腕を引いた。すると、航生は驚いたように立ち止まった。

「……ごめん、我を忘れてた。昔からダメなんだ。君のことになると、冷静でいられなくなる」

 申し訳なさそうに眉を下げる航生。しかし、なぜかつないだ手を離してくれない。

「えっと、島くん?」

 困惑を深める紗月に向かって航生は真剣な顔で向き直った。

「俺の話、聞いてくれないか」

 切なさが滲む声で懇願されたら無下にできなかった。

(そこまでして、私になにを伝えたいの?)

 皆目見当もつかないけれど、紗月がホテルから逃げ帰ったせいで、彼が話をする機会を奪ってしまったのは確かだ。それに、話を聞くまでこの手を離してもらえそうもない。

「……うん、わかった」

「ありがとう。車の中で話そうか」

 うなずくと、航生はホッとしたように破顔し、今度はゆっくりとした足取りで紗月の手を引いた。
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