夢子さん

夢子さん

 都市伝説――夢子さん。
 まず、本の一ページ目に自分の名前を書いた紙を挟む。枕の下にその本を置き、ある言葉を唱えて眠ると、夢子さんが現れてその本の夢を見せてくれるらしい。
 わたしは好きな本の夢を見たくて、その都市伝説を試すことにした。
 どきどきしながら目をつむる。
「夢子さん、夢子さん。この本の夢を見せてください」
 そう唱えて、わたしは眠りについた。

 次に目を開けた時、わたしの目の前に一人の女の子がいた。
「あなたが夢子さん?」
「ええ、そうよ。あなたが見たいのは、この本の夢かしら?」
 夢子さんが手に持ってきたのは、わたしが枕の下に置いた本だった。彼女が本を開くと、どんどん本が大きくなっていった。
「さあ、本の世界へ行きましょう」
 夢子さんが手を差し出してくる。
 ――これで、憧れの本の夢を見られるんだ!
 わくわくしながら夢子さんの手を取って、本の世界へ飛び込んだ。
 辺りを見回せば、木材とレンガでできた家が立ち並んでいる。肉が吊り下げられた店、剣が描かれた看板を掲げる店、翼のある獣をかたどった銅像……日本とは明らかに違う街並みに、気分が高揚した。
 わたしの大好きなファンタジーの世界が目の前に広がっている。
 そのことに感動していると、ふとわたしの前を歩いていたはずの夢子さんがいないことに気がついた。
「……あれ、夢子さんは?」
 走り回って探したけれど、夢子さんは何処にもいなくて。
 不意に、頭の中に響くように夢子さんの声が聞こえてきた。
「憧れの本の世界はどう?」
「夢子さん、何処にいるの?」
 わたしの問いかけに夢子さんは答えない。
「あなたが無事に夢から覚めたければ、物語を終えること。この本の物語を終えるには、魔物と戦って倒すこと。そうすれば、あなたは目覚められるわ」
「魔物を倒すなんて、そんなことわたしには無理だよ!」
「それじゃあ、夢を楽しんでね」
 夢子さんの笑い声を最後に、彼女の声は聞こえなくなった。
 わたしは、よく読んだ知らない世界で、ひとりぼっちになってしまったのだった。



 夢子さんは、好きな本の夢を見せてくれる。
でも、気をつけて。目覚めるためには、ちゃんと物語を終わらせなければならない。
 そうしないと、一生その夢から目覚めることができなってしまうんだって。
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