詩を愛するお飾り皇后の逆転寵愛〜無愛想な皇帝陛下が恋した人は私でした〜
第十話 皇后・李桂麗
(私が……陛下を呪った?)
あまりにも身に覚えがない糾弾に、桂麗は言葉を失った。
「呉妃様。失礼ですが、そちらを陛下によくお見せしたいのですが」
武徳の腹心である遷が前に出て、花花に訊ねた。花花は「どうぞ」と言い、躊躇うことなく木像と削りカスを渡した。
受け取った遷は、それを武徳に見せた。
「確かに、人形と削りカスは同じ木ですね……」
「……これは……皇后の筆蹟だな……」
桂麗もおそるおそる覗き込んだ。
その削りカスに残る筆蹟は、間違いなく自分のものだった。
黄も、呪も。
見覚えがあって当然だった。
(これは、このあいだ私がこっそりと詠んでいた詩の書き損じだわ!)
一人で籠もって書いていた艶歌。
少しでも明るいものにしたくて、悲しい言葉は削ったのだ。
黄は、黄梅。呪は、我が身を呪う。
そういう意味で使ったのだ。
「嘘です! 呉妃様の捏造です!」
控えていた丹が大声をあげた。
「丹、おやめ!」
「いいえっ! この削りカスを見つけた女官とは誰なのですか? お教え下さい、呉妃様!」
いくら皇后付きとはいえ、一介の女官が妃に向かって反論するなど、後宮ではありえないことだった。
「それは、言えないわ。だって勇気を出して告発してくれたのだもの」
だが花花は、一笑にふした。
「誰が見つけたかは些末なこと。陛下は、この筆蹟が彼女のものだとお認めになった。さあ、李桂麗。陛下に対して申し開きはあるかしら」
もはや、李后様とは口が裂けても呼びたくないのだろう。元々彼女は、自分に対して敵意を持っているのは知っている。
(どうしよう。草稿の木簡は処分してしまった。ここにあるのは、清書したものだけ)
胸を押さえる。かさりと、小さな音が布越しに伝わった。
(それに、皇后が艶歌を詠んでいたことは、まだ言えない。ましてやこんな場で……)
最初から協力してくれた丹。
春暁麗人の詩を愛し、その正体を知って受け入れてくれた武徳。
だけど、この場にいる人々はどうだろう。
花花からの嫌疑は晴らせるとして、彼女はさらに追いつめてくるのではないか。
(でも、私が陛下を呪ったなんて)
そのことだけは、はっきりと否定しなくてはならない。
人形にしても、捏造されたものだ。
桂麗は立ち上がることなく、座したまま、しかし背筋をしゃんと伸ばして口を開いた。
「身に覚えがありません」
ざわつく庭園が、水を打ったように静まった。
「この国の皇后・李桂麗の名において誓います。私が、皇帝陛下を呪詛するなど──断じて、有り得ません」
あまりにも身に覚えがない糾弾に、桂麗は言葉を失った。
「呉妃様。失礼ですが、そちらを陛下によくお見せしたいのですが」
武徳の腹心である遷が前に出て、花花に訊ねた。花花は「どうぞ」と言い、躊躇うことなく木像と削りカスを渡した。
受け取った遷は、それを武徳に見せた。
「確かに、人形と削りカスは同じ木ですね……」
「……これは……皇后の筆蹟だな……」
桂麗もおそるおそる覗き込んだ。
その削りカスに残る筆蹟は、間違いなく自分のものだった。
黄も、呪も。
見覚えがあって当然だった。
(これは、このあいだ私がこっそりと詠んでいた詩の書き損じだわ!)
一人で籠もって書いていた艶歌。
少しでも明るいものにしたくて、悲しい言葉は削ったのだ。
黄は、黄梅。呪は、我が身を呪う。
そういう意味で使ったのだ。
「嘘です! 呉妃様の捏造です!」
控えていた丹が大声をあげた。
「丹、おやめ!」
「いいえっ! この削りカスを見つけた女官とは誰なのですか? お教え下さい、呉妃様!」
いくら皇后付きとはいえ、一介の女官が妃に向かって反論するなど、後宮ではありえないことだった。
「それは、言えないわ。だって勇気を出して告発してくれたのだもの」
だが花花は、一笑にふした。
「誰が見つけたかは些末なこと。陛下は、この筆蹟が彼女のものだとお認めになった。さあ、李桂麗。陛下に対して申し開きはあるかしら」
もはや、李后様とは口が裂けても呼びたくないのだろう。元々彼女は、自分に対して敵意を持っているのは知っている。
(どうしよう。草稿の木簡は処分してしまった。ここにあるのは、清書したものだけ)
胸を押さえる。かさりと、小さな音が布越しに伝わった。
(それに、皇后が艶歌を詠んでいたことは、まだ言えない。ましてやこんな場で……)
最初から協力してくれた丹。
春暁麗人の詩を愛し、その正体を知って受け入れてくれた武徳。
だけど、この場にいる人々はどうだろう。
花花からの嫌疑は晴らせるとして、彼女はさらに追いつめてくるのではないか。
(でも、私が陛下を呪ったなんて)
そのことだけは、はっきりと否定しなくてはならない。
人形にしても、捏造されたものだ。
桂麗は立ち上がることなく、座したまま、しかし背筋をしゃんと伸ばして口を開いた。
「身に覚えがありません」
ざわつく庭園が、水を打ったように静まった。
「この国の皇后・李桂麗の名において誓います。私が、皇帝陛下を呪詛するなど──断じて、有り得ません」