婚約者の浮気が発覚したので、街の中心で「誰か私を貰って!」と叫んだら大物が釣れました
第1話 街の中心で愛を乞う
「ごめんなさい。貴女の彼、貰っちゃった」
ある昼下がり、婚約者であるオズワルドの元を訪れた私が目にしたのは、何処ぞの女と裸で抱き合う彼の姿だった。
「ち、違うんだ!」
呆然と立ち竦む私に、彼は何度も誤解だと言い張っているが、女の顔はそうは言っていない。勝ち誇ったように彼の腰に手を回し微笑んでいる。
まあ、現場を見れば一目瞭然。
床には散乱した衣類に乱れたシーツ。さぞ盛り上がったのだろう……二人の肌には、赤い痕や爪の痕が幾つも付けられている。
この状況で誤魔化せると思ってるヤツは、相手を舐め腐って馬鹿にしているに違いない。潔く認めた方が、こちらだって気持ちがいい。
「ツェスカ…」
オズワルドは被害者面で、許しを乞うように手を伸ばしてくる。厚かましいにもほどがある。
バシッ!とその手を笑顔で叩き落とし、ゴミを見るような目を向けながら一言。
「地獄に落ちろ」
***
私、ツェスカ・フランツェンは、フランツェン伯爵家の一人娘。先程の愚男は、子爵家の次男坊。婚姻後は婿養子として、伯爵家へ入る事が決まっていた矢先の出来事。当然、彼有責の婚約破棄は確定。
親同士が決めた婚約とはいえ、オズワルドの事は嫌いではなかった。
際立って美しい人ではない。当たり障りのない程度の容姿だったが、別に外見はどうでも良かった。人を気遣って敬う人柄が好きだった……
(その結果がアレなんだけど)
何がむかつくって、冴えない男に浮気されたって事実。目も眩むほどの男だったら、浮気されても仕方ないと受け入れることが出来るが……子爵家の次男坊ぞ?どこに奪うほどの価値があった?
寝取られた悲しみよりも、苛立ちで気が狂いそう。
「あっ」
怒りで周りの注意が散漫になっていたのもあり、足元の障害物に気付かず躓いてしまった。一度崩した体勢は簡単には立て直せず、為す術もなく派手に全身を地面に叩きつけた。
ここは人で賑わう街の中心と言うことあり、周りからはクスクスと笑う声。それに混じって心配する声が聞こえるが手を貸す者はいない。
(なんなの……)
婚約者は寝取られ、これ以上私に恥を晒せって?私が何したって言うの?
怒りで正気を保っていたが、ここに来て完全に心が折れた。神様なんてこの世には存在しない。この世にあるのは虚偽と偽善だけ。
……ほんと嫌……
ギュッと拳を握りしめ顔、をあげると大声で叫んだ。
「もういい……誰か……誰か、私を貰って!!!!」
半ばやけくそ。どうせ声なんてかかるはずなんてない。盛大に転んだお陰で服は土に塗れ、膝は擦りむき血が滲んでいる。こんな憐れで訳あり女に声をかけるような奇特な奴はいない。
でも、腹の底から声を出したお陰か、少しだけ気が晴れた気がする。
(スッキリしたし、騒ぎになる前にずらかりますか)
物珍しさと奇異の目で見る者らが集まり始めた。これ以上の悪目立ちは避けたい。
そんな思いで腰を上げた。すると「さっきの声の主は君?」なんて声が聞こえた。
振り返ると、そこには銀色の綺麗な髪を靡かせた御仁が立っていた。一度見たら忘れない程、端正な美顔を惜しみなく見せつけてくる。
(この人って……いや、そんなことより……)
右頬が赤く腫れていることの方が気になる。どう見ても、殴りたて。
「間違いでなければ、貴方、リオネル殿下ですよね?……その頬どうしたんです?」
「おや、私をご存じでしたか。実は、今しがた破局してしまいまして。そんな時に貴女の声が聞こえたんです。これは運命だと思いませんか?」
赤くなった頬を掻きつつ、天使のような微笑みを向けながら言う。
「……因みに、その原因は?」
「それが、デート中に私が他の女性に声をかけたのが気に入らないと言われ──」
「誰か!他の誰か!誰かいませんかぁ!!」
言葉を遮るようにして、他に貰ってくれる人はいないか大声を上げて挙手を願うが、男性陣から視線を逸らされてしまう。
「おやおや。候補は私だけのようですねぇ」
わざとらしく嬉しそうな顔を見せつけてくる。
(ムリムリムリムリムリ!)
この御仁は、リオネル・ヴァルトエック。この国の王太子殿下。一言でこの人を表すのならば、天使の仮面を被った下衆。女性関係に放縦で、来るもの拒まず去る者追わずの節操なし。その甘い顔に寄りつく女性は数知れないが、泣かされた数も数知れない。浮気された私が今一番嫌悪する人物である。
大事なことなのでもう一度言っておくが、これが我が国の王太子殿下です。
どうかしてると思うが、国王陛下も若い頃は似た様なものだったらしい。今の王妃様に出会い、本当の愛と言うものを知ってからは、王妃様一筋で側妃も娶らなかった。
その両親から生まれた彼、リオネルも本当の愛を探していると巷では噂されているが、単純に遊んでいる様にしか見えない。
(実は既に子供がいるとか、いないとか言われてるし)
本当の所は当人同士のみが知るところだろうが、子供がいようがいまいがどうでもいい。
「貴方だけは死んでも御免です」
「ほう、それは何故?自分で言うのも何ですが、結構な優良物件ですよ?」
「顔以外は事故物件です。下半身が猿並みの方とは付き合いたくないんです。ひとまず、去勢だけはお勧めしときます」
「それは困りましたね。跡継ぎ問題がありますから」
冷静に言い返された。
周りは「殿下になんて口を…」とざわついているが、知ったこっちゃない。今の私には怖いものなんて何もない。
「私は遊ぶにはつまらない女ですので、他を当たって下さい」
そう言って立ち去ろうとしたが、すかさず腕を掴まれた。
「つまらないかどうかは私が決めること。どうです?これから……」
耳元で囁くように言われた瞬間、カッと頭が沸き、パンッ!と乾いた音がその場に響き渡った。
言葉より先に体が動くって表現、初めての経験した。
平手を打ち付けた左頬を痛そうに擦るリオネルに謝罪をするつもりは毛頭ない。それどころか、嫌悪感に満ちた目で睨みつけ「失せろ」と吐き捨ててやった。
ある昼下がり、婚約者であるオズワルドの元を訪れた私が目にしたのは、何処ぞの女と裸で抱き合う彼の姿だった。
「ち、違うんだ!」
呆然と立ち竦む私に、彼は何度も誤解だと言い張っているが、女の顔はそうは言っていない。勝ち誇ったように彼の腰に手を回し微笑んでいる。
まあ、現場を見れば一目瞭然。
床には散乱した衣類に乱れたシーツ。さぞ盛り上がったのだろう……二人の肌には、赤い痕や爪の痕が幾つも付けられている。
この状況で誤魔化せると思ってるヤツは、相手を舐め腐って馬鹿にしているに違いない。潔く認めた方が、こちらだって気持ちがいい。
「ツェスカ…」
オズワルドは被害者面で、許しを乞うように手を伸ばしてくる。厚かましいにもほどがある。
バシッ!とその手を笑顔で叩き落とし、ゴミを見るような目を向けながら一言。
「地獄に落ちろ」
***
私、ツェスカ・フランツェンは、フランツェン伯爵家の一人娘。先程の愚男は、子爵家の次男坊。婚姻後は婿養子として、伯爵家へ入る事が決まっていた矢先の出来事。当然、彼有責の婚約破棄は確定。
親同士が決めた婚約とはいえ、オズワルドの事は嫌いではなかった。
際立って美しい人ではない。当たり障りのない程度の容姿だったが、別に外見はどうでも良かった。人を気遣って敬う人柄が好きだった……
(その結果がアレなんだけど)
何がむかつくって、冴えない男に浮気されたって事実。目も眩むほどの男だったら、浮気されても仕方ないと受け入れることが出来るが……子爵家の次男坊ぞ?どこに奪うほどの価値があった?
寝取られた悲しみよりも、苛立ちで気が狂いそう。
「あっ」
怒りで周りの注意が散漫になっていたのもあり、足元の障害物に気付かず躓いてしまった。一度崩した体勢は簡単には立て直せず、為す術もなく派手に全身を地面に叩きつけた。
ここは人で賑わう街の中心と言うことあり、周りからはクスクスと笑う声。それに混じって心配する声が聞こえるが手を貸す者はいない。
(なんなの……)
婚約者は寝取られ、これ以上私に恥を晒せって?私が何したって言うの?
怒りで正気を保っていたが、ここに来て完全に心が折れた。神様なんてこの世には存在しない。この世にあるのは虚偽と偽善だけ。
……ほんと嫌……
ギュッと拳を握りしめ顔、をあげると大声で叫んだ。
「もういい……誰か……誰か、私を貰って!!!!」
半ばやけくそ。どうせ声なんてかかるはずなんてない。盛大に転んだお陰で服は土に塗れ、膝は擦りむき血が滲んでいる。こんな憐れで訳あり女に声をかけるような奇特な奴はいない。
でも、腹の底から声を出したお陰か、少しだけ気が晴れた気がする。
(スッキリしたし、騒ぎになる前にずらかりますか)
物珍しさと奇異の目で見る者らが集まり始めた。これ以上の悪目立ちは避けたい。
そんな思いで腰を上げた。すると「さっきの声の主は君?」なんて声が聞こえた。
振り返ると、そこには銀色の綺麗な髪を靡かせた御仁が立っていた。一度見たら忘れない程、端正な美顔を惜しみなく見せつけてくる。
(この人って……いや、そんなことより……)
右頬が赤く腫れていることの方が気になる。どう見ても、殴りたて。
「間違いでなければ、貴方、リオネル殿下ですよね?……その頬どうしたんです?」
「おや、私をご存じでしたか。実は、今しがた破局してしまいまして。そんな時に貴女の声が聞こえたんです。これは運命だと思いませんか?」
赤くなった頬を掻きつつ、天使のような微笑みを向けながら言う。
「……因みに、その原因は?」
「それが、デート中に私が他の女性に声をかけたのが気に入らないと言われ──」
「誰か!他の誰か!誰かいませんかぁ!!」
言葉を遮るようにして、他に貰ってくれる人はいないか大声を上げて挙手を願うが、男性陣から視線を逸らされてしまう。
「おやおや。候補は私だけのようですねぇ」
わざとらしく嬉しそうな顔を見せつけてくる。
(ムリムリムリムリムリ!)
この御仁は、リオネル・ヴァルトエック。この国の王太子殿下。一言でこの人を表すのならば、天使の仮面を被った下衆。女性関係に放縦で、来るもの拒まず去る者追わずの節操なし。その甘い顔に寄りつく女性は数知れないが、泣かされた数も数知れない。浮気された私が今一番嫌悪する人物である。
大事なことなのでもう一度言っておくが、これが我が国の王太子殿下です。
どうかしてると思うが、国王陛下も若い頃は似た様なものだったらしい。今の王妃様に出会い、本当の愛と言うものを知ってからは、王妃様一筋で側妃も娶らなかった。
その両親から生まれた彼、リオネルも本当の愛を探していると巷では噂されているが、単純に遊んでいる様にしか見えない。
(実は既に子供がいるとか、いないとか言われてるし)
本当の所は当人同士のみが知るところだろうが、子供がいようがいまいがどうでもいい。
「貴方だけは死んでも御免です」
「ほう、それは何故?自分で言うのも何ですが、結構な優良物件ですよ?」
「顔以外は事故物件です。下半身が猿並みの方とは付き合いたくないんです。ひとまず、去勢だけはお勧めしときます」
「それは困りましたね。跡継ぎ問題がありますから」
冷静に言い返された。
周りは「殿下になんて口を…」とざわついているが、知ったこっちゃない。今の私には怖いものなんて何もない。
「私は遊ぶにはつまらない女ですので、他を当たって下さい」
そう言って立ち去ろうとしたが、すかさず腕を掴まれた。
「つまらないかどうかは私が決めること。どうです?これから……」
耳元で囁くように言われた瞬間、カッと頭が沸き、パンッ!と乾いた音がその場に響き渡った。
言葉より先に体が動くって表現、初めての経験した。
平手を打ち付けた左頬を痛そうに擦るリオネルに謝罪をするつもりは毛頭ない。それどころか、嫌悪感に満ちた目で睨みつけ「失せろ」と吐き捨ててやった。
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