棘ある花も愛されたい

明るく話しやすい禅さんとの時間は、諒祐が居なくなり一人寂しかったわたしの心を紛らわせてくれた。
寂しさ紛れに吸っていた諒祐の煙草も必要ないくらい、わたしは禅さんとの時間を楽しんでいて、禅さんが帰らなければいいのに、とさえ思ってしまった。

そんな禅さんとの時間に終わりを迎えたのは、日付が変わった後だ。

まだ名残惜しかったが、禅さんとは2日後に会う約束をし、連絡先も交換した。

「それじゃあね、紗和ちゃん。ご馳走様でした。おやすみ。」
「おやすみなさい、禅さん。」

そう言い、わたしたちは手を振って別れ、禅さんが帰って行き、わたしは閉まった扉の前でしばらくの間、禅さんが帰り再び静まり返る部屋の寂しさと戦っていたのだった。


それから、次の日。
わたしは13時からの出勤だった。

出勤すると、店内は既にたくさんのお客様で混み合っており、新作ゲーム"クリスタルハーツⅤ"の発売日という事もあり、その購入のお客様たちが列を成していた。

「おはようございます。」

挨拶もそこそこに、わたしはすぐにレジの応援に入る。
すると、既に出勤していた青佐くんが「おはようございます。」と挨拶を返してくれ、「こっちのレジは、予約のお客様専用で承ってます。」と今の状況を説明してくれた。

そして、次から次へとやって来るお客様たちの対応に追われ、やっと落ち着いたのは16時を過ぎる頃だった。
そこでやっとみんな順番に休憩時間を取っていく。

わたしは青佐くんと売り場に残り、まだ終えていなかった売価変更のシール貼り作業をする事にした。

「やっぱり、予想通り忙しかったっすね。」
「そうだね。青佐くんも"クリスタルハーツⅤ"買うんだっけ?」
「はい!帰りに買って帰りますよ!」

そんな会話をしながら、売り場で売価変更シールを貼っていく。
すると青佐くんが「あのぉ、土倉さん。」とわたしを呼ぶ。

わたしは「何?」と言いながら、隣で売価変更シールを貼っている青佐くんを見上げた。

「今日って、20時まででしたよね?」
「うん、20時までだよ。」
「じゃあ···、帰り、家まで送りますよ。」
「えっ?でも、青佐くん19時半までだよね?」
「30分くらいなら、時間潰せるんで。」

青佐くんはそう言いながら、何だか気恥ずかしそうにわたしから視線を逸らした。

「帰り、夜だと一人は危ないじゃないですか?」

そう言う青佐くんの言葉に、わたしはふと昨日の禅さんの言葉を思い出す。

―――こんな時間に一人で出歩いたら危ないよ?変な男が彷徨いてたりするからさ。

「変な男が彷徨いてたりするから?」

わたしが冗談混じりにそう言うと、青佐くんは「そ、そう!そうっすよ!だから、俺が家まで送ります!」と力強く言ってくれた。
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