蝶に灯火を
🦋🦋🦋
都会の夜はいつも光で溢れている。

見上げれば高いビルが並び
石畳みたいに整えられた歩道はどこか異国的で
12月24日の街はやけに綺麗だった。

パリみたいだ…

なんて思ったことはないけれど
イルミネーションに照らされた夜は
現実感を薄くしてしまう。

「ねぇ!あれ、綺麗じゃない!?」
「ほんとだ!いこいこ!」

僕の横を足早に若い女性たちが通り過ぎていく。

半ズボンに短いスカート
その服装を見た途端
余計に冷たい空気が身に染みた気がした。

僕のコーデと言えばその真逆だ。

首まで襟を立てられる黒いコートに
黒のキャップ
分厚めのマフラーと肝心な手袋。

肌を出すなんてもってのほか

「………さむっ」

小さく息を漏らすと白い息がふわっと浮かんだ。

こんなに着込んでいても寒いのに
あの人たちは……多分人間じゃない。

マフラーを巻き直して顔をうずめ
手袋をした手をコートのポケットに入れる。

ふと横を見ると
街灯に照らされ窓ガラスに映る自分の姿があった。

コートが少し長めなおかげで
それなりに大人びて見える……かもしれない。

男性のわりに身長は165センチと低め。

小さい頃はいつも腰に手を当てる役で
本当に並ぶのが嫌いだった。

でも年齢を重ねるうちに
筋肉が綺麗につきやすいタイプなんだと気づいて
筋トレをするようになってからは
周りの人に「身長のわりにスタイルいいね」
なんて言われることも増えた。

身長の・わ・り・に……ね

「一言多いんだよな」

そんなことを思いながら
人の流れに身を任せ前へ前へ歩いていると
視線は自然と下に向いてしまうもので…

――ごん

思ったよりもしっかりとした衝撃が肩に伝わり
反射的に足を止めて顔を上げる。

「あ……」

目の前には男女のカップルが立っていた。
少し驚いたような顔で
すぐに女性のほうが口を開く。

「すみません。」
「……いえ、大丈夫です。」

僕も小さく頭を下げる。

お互いにそれ以上言葉を交わすこともなく
すれ違う。

楽しそうに並んで歩く二人の背中が
イルミネーションの光に溶けていく。

そのまま歩き出せばいいものを
ほんの一瞬…いつものクセで
無意識に周りを見渡してしまう。

人の波に紛れて
同じように寄り添い合う影がいくつも見える。

その中でふと目に留まったのがあった。

「あ……」

見つけてしまった…。

近づかなくても喋らなくてもわかる
あれはきっとカップルだ…。

しかも男同士の…

「寒くない?」

そう言って片方の男性が手を差し出す。

もう一人は少しだけ躊躇ってから
その手を握り返し
そのまま彼のコートのポケットに
自分の手を滑り込ませた。

「大丈夫!」

そう答えながら照れ隠しみたいに小さく笑う。

「なにそれ、かわいい」

言葉に滲むのは
隠しきれないほどの優しさだった。

二人は自然に寄り添ったまま
さっきのカップルと同様に
イルミネーションの中へ溶けていく。

その光景を僕は立ち止まったまま見ていた。

やがて、そっと視線を逸らす。

「はぁ……」

胸の奥がほんの少しだけきゅっと痛んだ。

またやってしまった…
こうなることは最初から分かっている。

見なければいいのに
感じなければいいのに

それでも同じ光景に目を奪われて
同じ場所が同じように傷む。

この痛みがどれほど厄介か
僕はもう嫌というほど知っているのに。

――この世界には男女の他に第二の性がある。

アルファ、ベータ、オメガ。

誰を好きになるかとは別に
生まれた瞬間から与えられるもうひとつの性別。

ああして手をつなぐことも
「可愛い」なんて言葉を向けることも
この街ではもう特別なことじゃない。

それでも。

誰にとっても同じように生きやすいわけじゃない。

光に包まれたこの夜は
僕には少しだけ眩しすぎた。

だからだろうか
無意識にまた視線が下を向く。

そのとき……

「おにいちゃん?」

不意に背後から小さな声がした。


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