「本音を隠していた子 — だいじょうぶと、言えるように —」

第6話 少しずつ、前へ



教室には、いつもの声が広がっていた。

話し声。
笑い声。

えんぴつの音も、混ざっている。

飛羽は、ノートを見ていた。

問題を読む。

少しだけ考える。
手が、止まった。

「……」

分からない。

でも――

飛羽は、顔を上げた。

「先生」

声をかける。
先生が、すぐに振り向く。

「どうしたの?」

「ここ、分かんない」

前より、少しだけ落ち着いた声だった。
先生は、近くに来る。

「どこまで考えた?」

ノートを見せる。

「ここまでは合ってるよ」

その言葉に、少しだけ安心する。

「じゃあ、ここから一緒に考えよっか」

うなずく。

先生の声を聞きながら、もう一度考える。
さっきより、少しだけ分かる気がした。

「……あ」

「いいね、その調子」

小さく、うなずく。

前みたいに、止まったままじゃない。
分からないまま、終わらない。

――だいじょうぶ。

ふと、頭の中に言葉が浮かぶ。

『分からなかったら、言っていいんだよ』

愛華先生の声だった。

あのとき、言われた言葉。

今は――

「……先生」

「ん?」

「もう一回、教えて」

自分から言える。

先生は、やさしくうなずく。

「いいよ」

その声に、安心する。

――うん、だいじょうぶ。

そう思えたとき。

ふと、もうひとつの記憶がよぎる。

やわらかい声。

近くに来てくれる距離。

何も言わなくても、そばにいてくれた人の存在。

胸の奥が、少しだけあたたかくなる。

――だいじょうぶ

少しずつ。

ゆっくり。

前に、進んでいく。

教室の中は、いつも通りの音であふれていた。

でも――

飛羽の中は、少しだけ変わっていた。
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“いい子”でいることは、本当にいいこと? 周りを見て、人を優先してしまう男の子。 その優しさの裏にあったのは、言葉にならない「我慢」だった。 「やだ」「さみしい」と言えるようになるまでの、小さくて大きな一歩。 やさしく寄り添う、心の成長の物語。

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