静寂に名前をつけるなら
彼女を見つけたのは、2022年12月9日
その日は特別寒くて、雪が降っていた。でも、それが良かったんだと思う。
その日はバイト帰りだった。手がかじかんでいてギターケースの紐がやけに重く感じた。早く帰るつもりだったのに、何故か足が止まった。
街の中心部の花屋、そこに彼女は居た。
暖かそうなベージュのコートを着込んでいて、コートの色よりも柔らかいブロンドの髪がよく映えていた。途端、周囲の音が消えた。
そう思うぐらいに、美しく輝いていた。
何かの花を手にとって、その花をたいそう愛おしそうに撫でるものだから、思わずスマホのカメラを向けてしまった。何で?と、問われれば、知らねぇよでもそうしないと駄目な気がしたからだよ。と答えるしかない。駄目だとは思った。でも手が止まらなかった。レンズ越しに見る彼女は、目で見るより劣っているけれど、そんなの気にせずスマホを向ける。シャッター音なんか、俺には聞こえなかったけど、彼女には聞こえたみたいだった。花から目を移して、彼女の目は俺を捕らえた。紫だった、吸い込まれそうな鮮やかな青紫色の瞳。
心臓を、打ち抜かれた。
大袈裟に聞こえるかもだけど、本当にそう思った。
「誰?」
あぁ、凄いな。女なんだろうけど、そう言う感じじゃない。世界の美しい物全てで、彼女の存在を創り上げている様だ。
「あの、スマホ落としましたよ」
スマホなんかどうでも良い。1秒でも多く彼女を見つめていたい。あっ、でももっと声を聞きたい。
「なぁ、あんた名前は」
思ったら声が出た、俺こんな声だっけ?
「え?名前?」
「そう、あんたの名前」
彼女は少しビックリしてる様子で、手元の花をクルクル回して微笑んだ。
「じゃあこの花の名前を当てれたら教えてあげるよ」
首を少し傾けて、何でしょう?と俺の方に花を向ける。
花か、知らないな。どうしようか。
紫色、一見バラみたいな。
花屋に目を向ける、彼女が持っているような花が何処かにあると思ったから。
多種多様な花の中で、似ている花を見つける。目が良くてよかった。置いてある花の壺に書いてある名札を見つけた。
「…トルコキキョウ、だよな」
彼女は俯いていた。長く艷やかな髪が風で靡き、そして顔を上げる。
「正解!よく分かったね!花に詳しいの?」
答えられたのが嬉しかったのか、彼女は興味津々に俺に聞く。
しかし俺は書いてあった名札を見てしまったからズルではないだろうか。何だか罪悪感がある。このまま黙っていたほうが良いだろうか?でもそうしたらバレたとき彼女は悲しむだろう。
「いや、書いてあった。あそこに」
花屋の奥の方を指差した。正直に俺は答える事にした。
彼女は指の差した方向を見てポカーンとした評定をした。一転、ムスッとした表情て俺を見た。
「ずるい!答え見たんじゃん!でも当てれたからね。約束は守らなきゃ。」
彼女は右手を胸に当て言った。
「僕は鹿野詩聖、よろしくね。それで、僕に名前を言わせたくせに自分は言わないの?」
それもそうか。
少し眉をしかめる詩聖は怒ったるように見えるけど、幼さが残っていた。
「鶴崎 与一」
そう言うと嬉しそうに言った。
「与一君か、いい名前だね」
それは詩聖の方だと言えればよかった。
詩聖は、じっと俺を見た。手を後ろで組み、重心を左にゆっくり傾けた。
「ねぇ与一君、その背負ってるのってギター?ベース?」
どうやらこれが気になるらしい。
「ギター」
「うまい?」
「さぁ?どうだろ」
上手いか下手なんて、俺には分からない。
詩聖は目をパチパチさしてこっちに近づいてきた。詩聖は毛穴とか無いんじゃね。すっげー綺麗。とか思ってると詩聖が俺の手を握ってきた。何事?
「ねぇ!僕のバンドに入らない!?メインギターが居なくて!」
ギターが居ないバンドってなんだよ。
「お願い!皆うまいよ!」
詩聖は、このままじゃバンドが空中分解しちゃうんだよ〜!と、凄い勢いで誘ってくる。
とてつもなく入りたいが、生憎金が無い。俺の家はお世辞でもいいとは言えない。詩聖には悪いが断ろう。
「あぁ…入りたいんだけど金なくてさ」
マジで本気で無い。明日食うものに有りつけないだってあった。
「お金って、練習に使うスタジオ代だよね…与一君ってバイトしてる?」
「してるけど、二つ。」
詩聖は少し考えたあと俺をじっと見つめて言った。
「なら、僕が与一君を雇うよ!」
自信満々、ドヤ顔でそう宣言されたけど、どうすればいいのだろうか。
つか、雇うってなに?
「えっと?」
俺が困惑してると、それはだな!って元気が有り余っているようだ。
「僕が与一君を雇うの。仕事内容は僕が入っているバンドのメインギター。基本的には、週四の練習にライブ。練習はたまに減ったり増えたりするけどね。どう?」
…案外いい。というよりそれだったら合法的に詩聖の近くにいれるわけだ。うんいい。
ただ、他のバイトがある。生活する為に必要な金は、この二つで稼いでる。
どうしようかと悩んでいる俺に、詩聖はビシッと人差し指を向けてきた。詩聖はニコニコと微笑みながら言った。
「今他のバイトあるからな〜って思ったでしょ、安心してよ!一ヶ月10万でどう?一回のライブにつき追加で五万、スタジオ代も僕が払うよ。うふふ、なんでそんなにお金出すのか分からないだろう。」
両手を腰に当ててまぁ、俗に言う仁王立ちで話を続けた。
「それはスバリ!何故か入った人みーんなすぐ抜けてくの。今の子達は2ヶ月続いててこんなの初めてなの!また解散なんてもう嫌だ!というわけで、僕は凄く焦っているのです。」
しゅんとした表情のまま、上目遣いで俺を見る。
「ねぇ、与一君。ダメ?」
はは、本当に詩聖は見てて飽きない。
今日の天気は雪か。俺はそっと薄暗い空を見上げた。雲に覆われて、空の青さは感じられなかった。あぁ、忘れないようにしよう、この出会いを。忘れないようにしよう、雪がやめば澄んだ美しい空があることを。忘れることは、無いだろうが。
「よろしく詩聖。誠心誠意頑張ります。」
この日を境に俺の人生の歯車は、詩聖を中心に回り始めた。
高級感溢れる大理石の壁。掃除が行き届いた棚。絶対に値がはるであろうソファーや机。そこに座るのは計四名。一人は男、韓紅色の髪に鮮やかな緑の目。体つきはガッツリしていて鍛えてるのがよく分かる。もう一人が女、木賊色の髪と目。ピアスが個性的で三角形の形をした金色だった。残り二人が俺と詩聖。紅茶の香りが漂う部屋、ガラスの音が鳴る。詩聖が持っていたティーカップを置き、えぇ~では!と話始めた。
「こちらが新しくメンバーになるギターの鶴崎 与一君です!はい拍手〜!」
詩聖の拍手のだけが響く。
………………
「あれ、拍手は?」
みんな、どうしたの。聞いてる?!詩聖の問いには誰も答えなかった。
この状況を説明するならこうだろう。圧迫面接。男の方が俺の事をつま先から頭の先まで品定めする様に見てくる。女はというと、ティーカップを持ち紅茶をクルクルかき混ぜている。
「えっと…男の子の方が鯨井 仁、ドラム担当。女の子の方が燕塚 千尋、ベース担当です!」
俺はとりあえず「よろしくお願いします」と頭を下げて言ってみたが、二人は何も言わなった。鯨井とか言われてた男が詩聖を睨見つける。
「詩聖、一応聞くんだけどよ。花屋に行ったら、後ろから写真を撮られたと。そんで名前聞かれたから教えたんだよな?」
鯨井は眉間の皺を左手で抑えながら聞く。
「うん、合ってるよ。」あぁそう‥。何とも言えない声で言った。
「あぁー、それからギター背負ってたからバンドに誘った事で合ってる?」
頭を抱えながら聞いてくる。まぁ、そうだよな普通。詩聖は自分が悪いなんて考えてるようには見えず、というかそもそもそんな思考を持ち合わせてないのだろう。
「うん、大体は合ってるよ」
鯨井から大きなため息が聞こえてきた、何かごめん。少しの罪悪感はあるけれどそれでも後悔はして無かった。だって詩聖に会えて、同じバンドに入れるんだから。
急にバンっという音がした。机を強く叩く音というのは分かった。その音の原因は鯨井だった。鯨井は青筋を立てて怒鳴った。
「詩聖テメーは馬鹿か!?普通に不審者だろうが!警察署行きだろ!警戒心持ってくれ!つか何お前もついてきてんだよ!くんなボケ!」
その日は特別寒くて、雪が降っていた。でも、それが良かったんだと思う。
その日はバイト帰りだった。手がかじかんでいてギターケースの紐がやけに重く感じた。早く帰るつもりだったのに、何故か足が止まった。
街の中心部の花屋、そこに彼女は居た。
暖かそうなベージュのコートを着込んでいて、コートの色よりも柔らかいブロンドの髪がよく映えていた。途端、周囲の音が消えた。
そう思うぐらいに、美しく輝いていた。
何かの花を手にとって、その花をたいそう愛おしそうに撫でるものだから、思わずスマホのカメラを向けてしまった。何で?と、問われれば、知らねぇよでもそうしないと駄目な気がしたからだよ。と答えるしかない。駄目だとは思った。でも手が止まらなかった。レンズ越しに見る彼女は、目で見るより劣っているけれど、そんなの気にせずスマホを向ける。シャッター音なんか、俺には聞こえなかったけど、彼女には聞こえたみたいだった。花から目を移して、彼女の目は俺を捕らえた。紫だった、吸い込まれそうな鮮やかな青紫色の瞳。
心臓を、打ち抜かれた。
大袈裟に聞こえるかもだけど、本当にそう思った。
「誰?」
あぁ、凄いな。女なんだろうけど、そう言う感じじゃない。世界の美しい物全てで、彼女の存在を創り上げている様だ。
「あの、スマホ落としましたよ」
スマホなんかどうでも良い。1秒でも多く彼女を見つめていたい。あっ、でももっと声を聞きたい。
「なぁ、あんた名前は」
思ったら声が出た、俺こんな声だっけ?
「え?名前?」
「そう、あんたの名前」
彼女は少しビックリしてる様子で、手元の花をクルクル回して微笑んだ。
「じゃあこの花の名前を当てれたら教えてあげるよ」
首を少し傾けて、何でしょう?と俺の方に花を向ける。
花か、知らないな。どうしようか。
紫色、一見バラみたいな。
花屋に目を向ける、彼女が持っているような花が何処かにあると思ったから。
多種多様な花の中で、似ている花を見つける。目が良くてよかった。置いてある花の壺に書いてある名札を見つけた。
「…トルコキキョウ、だよな」
彼女は俯いていた。長く艷やかな髪が風で靡き、そして顔を上げる。
「正解!よく分かったね!花に詳しいの?」
答えられたのが嬉しかったのか、彼女は興味津々に俺に聞く。
しかし俺は書いてあった名札を見てしまったからズルではないだろうか。何だか罪悪感がある。このまま黙っていたほうが良いだろうか?でもそうしたらバレたとき彼女は悲しむだろう。
「いや、書いてあった。あそこに」
花屋の奥の方を指差した。正直に俺は答える事にした。
彼女は指の差した方向を見てポカーンとした評定をした。一転、ムスッとした表情て俺を見た。
「ずるい!答え見たんじゃん!でも当てれたからね。約束は守らなきゃ。」
彼女は右手を胸に当て言った。
「僕は鹿野詩聖、よろしくね。それで、僕に名前を言わせたくせに自分は言わないの?」
それもそうか。
少し眉をしかめる詩聖は怒ったるように見えるけど、幼さが残っていた。
「鶴崎 与一」
そう言うと嬉しそうに言った。
「与一君か、いい名前だね」
それは詩聖の方だと言えればよかった。
詩聖は、じっと俺を見た。手を後ろで組み、重心を左にゆっくり傾けた。
「ねぇ与一君、その背負ってるのってギター?ベース?」
どうやらこれが気になるらしい。
「ギター」
「うまい?」
「さぁ?どうだろ」
上手いか下手なんて、俺には分からない。
詩聖は目をパチパチさしてこっちに近づいてきた。詩聖は毛穴とか無いんじゃね。すっげー綺麗。とか思ってると詩聖が俺の手を握ってきた。何事?
「ねぇ!僕のバンドに入らない!?メインギターが居なくて!」
ギターが居ないバンドってなんだよ。
「お願い!皆うまいよ!」
詩聖は、このままじゃバンドが空中分解しちゃうんだよ〜!と、凄い勢いで誘ってくる。
とてつもなく入りたいが、生憎金が無い。俺の家はお世辞でもいいとは言えない。詩聖には悪いが断ろう。
「あぁ…入りたいんだけど金なくてさ」
マジで本気で無い。明日食うものに有りつけないだってあった。
「お金って、練習に使うスタジオ代だよね…与一君ってバイトしてる?」
「してるけど、二つ。」
詩聖は少し考えたあと俺をじっと見つめて言った。
「なら、僕が与一君を雇うよ!」
自信満々、ドヤ顔でそう宣言されたけど、どうすればいいのだろうか。
つか、雇うってなに?
「えっと?」
俺が困惑してると、それはだな!って元気が有り余っているようだ。
「僕が与一君を雇うの。仕事内容は僕が入っているバンドのメインギター。基本的には、週四の練習にライブ。練習はたまに減ったり増えたりするけどね。どう?」
…案外いい。というよりそれだったら合法的に詩聖の近くにいれるわけだ。うんいい。
ただ、他のバイトがある。生活する為に必要な金は、この二つで稼いでる。
どうしようかと悩んでいる俺に、詩聖はビシッと人差し指を向けてきた。詩聖はニコニコと微笑みながら言った。
「今他のバイトあるからな〜って思ったでしょ、安心してよ!一ヶ月10万でどう?一回のライブにつき追加で五万、スタジオ代も僕が払うよ。うふふ、なんでそんなにお金出すのか分からないだろう。」
両手を腰に当ててまぁ、俗に言う仁王立ちで話を続けた。
「それはスバリ!何故か入った人みーんなすぐ抜けてくの。今の子達は2ヶ月続いててこんなの初めてなの!また解散なんてもう嫌だ!というわけで、僕は凄く焦っているのです。」
しゅんとした表情のまま、上目遣いで俺を見る。
「ねぇ、与一君。ダメ?」
はは、本当に詩聖は見てて飽きない。
今日の天気は雪か。俺はそっと薄暗い空を見上げた。雲に覆われて、空の青さは感じられなかった。あぁ、忘れないようにしよう、この出会いを。忘れないようにしよう、雪がやめば澄んだ美しい空があることを。忘れることは、無いだろうが。
「よろしく詩聖。誠心誠意頑張ります。」
この日を境に俺の人生の歯車は、詩聖を中心に回り始めた。
高級感溢れる大理石の壁。掃除が行き届いた棚。絶対に値がはるであろうソファーや机。そこに座るのは計四名。一人は男、韓紅色の髪に鮮やかな緑の目。体つきはガッツリしていて鍛えてるのがよく分かる。もう一人が女、木賊色の髪と目。ピアスが個性的で三角形の形をした金色だった。残り二人が俺と詩聖。紅茶の香りが漂う部屋、ガラスの音が鳴る。詩聖が持っていたティーカップを置き、えぇ~では!と話始めた。
「こちらが新しくメンバーになるギターの鶴崎 与一君です!はい拍手〜!」
詩聖の拍手のだけが響く。
………………
「あれ、拍手は?」
みんな、どうしたの。聞いてる?!詩聖の問いには誰も答えなかった。
この状況を説明するならこうだろう。圧迫面接。男の方が俺の事をつま先から頭の先まで品定めする様に見てくる。女はというと、ティーカップを持ち紅茶をクルクルかき混ぜている。
「えっと…男の子の方が鯨井 仁、ドラム担当。女の子の方が燕塚 千尋、ベース担当です!」
俺はとりあえず「よろしくお願いします」と頭を下げて言ってみたが、二人は何も言わなった。鯨井とか言われてた男が詩聖を睨見つける。
「詩聖、一応聞くんだけどよ。花屋に行ったら、後ろから写真を撮られたと。そんで名前聞かれたから教えたんだよな?」
鯨井は眉間の皺を左手で抑えながら聞く。
「うん、合ってるよ。」あぁそう‥。何とも言えない声で言った。
「あぁー、それからギター背負ってたからバンドに誘った事で合ってる?」
頭を抱えながら聞いてくる。まぁ、そうだよな普通。詩聖は自分が悪いなんて考えてるようには見えず、というかそもそもそんな思考を持ち合わせてないのだろう。
「うん、大体は合ってるよ」
鯨井から大きなため息が聞こえてきた、何かごめん。少しの罪悪感はあるけれどそれでも後悔はして無かった。だって詩聖に会えて、同じバンドに入れるんだから。
急にバンっという音がした。机を強く叩く音というのは分かった。その音の原因は鯨井だった。鯨井は青筋を立てて怒鳴った。
「詩聖テメーは馬鹿か!?普通に不審者だろうが!警察署行きだろ!警戒心持ってくれ!つか何お前もついてきてんだよ!くんなボケ!」