万華鏡は月を巻き戻す
朔 side
黒木院長との話を思い返しながら歩く。
あれで終わったはずだ。
羽瑠はもう狙われない。
そう思いたかった。
だけど――胸の奥がざわつく。
(羽瑠の両親の旅行…あれは本当に偶然だったのか?)
羽瑠が殺されたのは“今日”。
夏祭りの日。
衝動ではない。
計画的だったはずだ。
もし、夏祭りの日に狙われたのが“必然”だったのなら――
(まだ…終わってない。)
背筋が冷たくなる。
俺はすぐに羽瑠へ電話をかけた。
コール音が続く。
出ない。
「くそ!」
胸が締めつけられる。
嫌な予感が、全身を駆け巡る。
俺は走って道に飛び出し、
近くのタクシーを止めた。
「黒木病院にお願いします。」
声が震えていた。
運転手が驚いたようにこちらを見るが、
構っていられない。
頼む。
間に合ってくれ。
羽瑠を守るために未来から来たのに、
ここで失ったら――
俺は何のために生きてきたんだ。
タクシーは夜の街を走り抜ける。
胸の奥で、
何かが警鐘を鳴らし続けていた。