窓からストーカーが入ってきたんだけど、なぜか全員イケメンでした。
「ん〜!」
ファミレスのカフェで、私はチョコレートケーキを頬張りながら、幸せを噛みしめていた。
甘い。最高。神。
女子高校生の一人暮らしって、こんなに自由なんだ……!
誰にも怒られないし、好きな時間に帰れるし、夜更かしもできるし!
……まあ、たまにちょっと寂しいけど。
「……いや、全然寂しくないし?」
私は誰もいない席で、小さく強がった。
よし、帰ろ。
ケーキを秒速で食べ終わり、お金を払って外に出る。夕方の空はちょっとオレンジ色で、なんかエモい。
私は軽くスキップしながら、自宅へ向かった。
鍵を開けて、ドアを開ける。
「ただいまー……って誰もいないけどね!」
しーんとした部屋。
うん、これこれ。この静けさ。
最高かよ。
靴を脱いで、カバンを放り投げて、ソファーにダイブする。
「はぁ〜〜〜〜〜〜……」
これぞ至福。
私、小鳥遊 乃音(たかなし のん)。現在、絶賛一人暮らし満喫中の16歳です!
……と、その時。
カタン。
「……ん?」
今、音したよね?
気のせい?
いやでも、確実にキッチンの方から……
「え、無理無理無理無理無理」
一気に現実に引き戻された。
え、なに?泥棒?幽霊?どっちも嫌なんだけど。
私はクッションを抱きしめながら、じーっとキッチンの方を見つめる。
すると──
ガラッ。
「……は?」
窓、開いた。
そしてそこから、黒いパーカーの男が入ってきた。
「……あ。」
目が合った。
完全に。
ばっちりと。
数秒間、時が止まる。
え、なにこれ。
現実?????
「……えっと。」
私はとりあえず、冷静を装って口を開いた。
「……どちら様ですか?」
すると、黒パーカーの男は一瞬固まったあと、
「ご、ごめんなさいっ!!」
勢いよく土下座した。
早っ。
展開早っ。
「いや謝るのも大事だけど、まず説明して???」
「お、俺は……勅使河原 蓮って言って……」
「てしがわら?どこの貴族??」
「ち、違くて……その……怪しい者では……」
「いや怪しいだろ!!!!」
窓から入ってきてる時点でアウトだから!!!
するとその時。
「お前絶対怪しいだろ。」
後ろから声。
「……え?」
振り向くと──
ソファーの下から、金髪の男が出てきた。
「いやいやいやいや待って!?」
なんで!?
なんでそこにいた!?
「踏まれなくてよかったわ〜」
「いやそれ私のセリフ!!!!」
意味わかんない!!
金髪で、ピアスしてて、なんかやたら余裕そうな男。
めちゃくちゃイケメンだけど、それどころじゃない。
「で、お前なにしてんの?」
「それお前もだからな!?」
私の家だぞここ!!!
カオスすぎる。
情報量多すぎる。
脳が追いつかない。
「……乃音が困ってるだろ。」
低い声が、静かに響いた。
「……は?」
今度はどこ。
どこから。
恐る恐るキッチンを見ると──
ガチャ。
棚の扉が開いて、
中から長身の男子が出てきた。
「いやもうやめて!?!?!?」
なんで収納から人出てくるの!?
この家どうなってんの!?
しかも三人とも、普通に顔がいいのが余計腹立つ。
「……えっと。」
私は深呼吸して、三人を指さした。
「窓侵入の病み系男子。」
「……すみません……」
「ソファー下のチャラ男。」
「言い方な?」
「棚から出てくるクール系イケメン。」
三人、沈黙。
「……ここ、私の家なんだけど?????」
しーん。
「いや反応して!?!?!?」
なんで静かになるの!?
怖いんだけど!!
すると、クール系男子が一歩前に出た。
「……神宮寺 翼だ。」
「誰?????」
「乃音を守るために来た。」
「侵入方法見直せ!!!!」
即ツッコミ。
むしろ守られる側だろ私。
「俺も……その……乃音さんのことが気になって……」
蓮がもじもじ言う。
「毎日見てただけで……」
「それストーカー!!!!」
「俺はまあ、面白そうだから来た。」
翔が笑う。
「理由軽っっっ!!!」
もうダメだ。
こいつら全員おかしい。
「……はぁ。」
私はその場に座り込んだ。
「え、なにこれ。夢?」
「現実だな。」
「一番嫌なやつ!!!!」
最悪すぎる。
「……てかさ。」
私は顔を上げて、三人を見る。
「全員ストーカーってことでOK?」
「「「……。」」」
否定しろよ!!!
「……はぁぁぁぁぁ。」
終わった。
私の平和な一人暮らし、完全終了のお知らせ。
こうして──
私、小鳥遊 乃音の、
普通じゃない日常が、
いきなり始まったのでした。
──翌日。
「……。」
目が覚めた。
天井。いつもの天井。
……うん、夢じゃない。
「夢じゃないの最悪なんだけど!!!!」
私は布団から飛び起きた。
その瞬間。
「おはよ、乃音。」
「……は?」
真横。
距離、ゼロ。
神宮寺 翼。
「近い!!!!!!!!」
顔面の暴力。
朝から強い。
「ずっと見てた。」
「やめろ怖い!!!」
普通にホラーなんだけど。
「おはよ〜」
リビングから、のんきな声。
伊集院 翔がソファーでくつろいでいる。
テレビついてるし、もう完全に住人。
「なんで普通に生活してんの!?」
「順応性高いんで。」
「帰れ!!!!」
すると、キッチンからいい匂い。
「……え?」
覗くと──
黒パーカーの勅使河原 蓮が、フライパンを持っていた。
「……朝ごはん……」
「なんで作ってんの!!!??」
「乃音さん、昨日あんまり食べてなかったから……」
「いや優しいけど状況がおかしい!!!!」
意味わかんない。
ほんと意味わかんない。
「……はぁ。」
私は頭を抱えた。
「これ、どう考えてもおかしいよね?」
「……まぁな。」
翔が笑う。
「でも面白いだろ?」
「面白くない!!!」
全力否定。
その時。
ピンポーン。
「……え?」
インターホン。
全員、ぴたりと動きを止めた。
空気が一瞬で変わる。
「……乃音、出るな。」
翼が低く言う。
「え、なんで──」
ピンポーン。ピンポーン。
連打。
怖い怖い怖い怖い!!!
「ちょっと待って普通に怖いんだけど!?」
「……来たか。」
翔が小さく呟いた。
「は?」
来たかって何???
すると──
ガチャ。
ドアが、勝手に開いた。
「……え?」
鍵、閉めたよね???
そこに立っていたのは、
一人の男子。
爽やか。
めちゃくちゃ爽やか。
柔らかい笑顔で、手を軽く振っている。
「やっと会えたね、乃音ちゃん。」
「……誰???」
見たことない。
のに。
なんか、嫌な感じがする。
「初めまして、かな。」
にこっ、と笑う。
完璧な笑顔。
……なのに。
「……なんか胡散臭い。」
思わず本音出た。
「ひどいなぁ。」
くすっと笑う。
でも目、笑ってない。
「俺、ずっと見てたよ。」
「アウト!!!!」
即ツッコミ。
こいつもストーカーじゃん!!!
「昨日もさ、君がケーキ食べてるとこ。」
「やめて!?情報が具体的!!!!」
怖い怖い怖い!!!
「……誰だ、お前。」
翼が一歩前に出る。
空気、ピリッとした。
「ふふ。」
爽やか男子は、少しだけ首をかしげた。
「君たちと同じだよ。」
にこっ。
「乃音ちゃんが好き。」
「重っっっっっ!!!!」
四人目きた!!!!
しかも一番ヤバそう!!!!
「でもさ。」
その人は、ゆっくり私の方を見た。
「君たちとは違うよ。」
笑ってる。
ずっと笑ってる。
でも──
「俺の方が、ちゃんと見てるから。」
ぞわっ。
背筋が冷えた。
なにこれ。
一番怖いタイプ来た。
「……はぁ。」
私はその場にしゃがみ込んだ。
「ねえちょっと待って。」
全員を見る。
ストーカー四人。
イケメン。
全員帰る気ゼロ。
「……これ、どういう状況?????」
誰か説明して?????
すると、翔が楽しそうに笑った。
「ハーレム完成じゃね?」
「完成させるな!!!!」
翼は舌打ち。
蓮は完全に怯えてる。
そして──
爽やか男子だけが、
ずっと笑っていた。
「これからよろしくね、乃音ちゃん。」
「よろしくしない!!!!」
こうして──
私の普通じゃない日常は、
さらに最悪な方向に、
進化してしまったのでした。
「……ちょっと待って。」
私はゆっくり顔を上げた。
「名前くらい言ってもらっていい?」
爽やか男子は、にこっと笑う。
「うん、もちろん。」
一歩、こちらに近づいてくる。
距離が縮まる。
無意識に後ろに下がった。
「如月 隼人(きさらぎ はやと)。」
さらっと言った。
名前まで爽やかかよ。
「よろしくね、乃音ちゃん。」
「よろしくしない!!!!」
即ツッコミ。
反射。
もう条件反射。
「……如月。」
翼が低く呟く。
「聞いたことないな。」
「そりゃあ、表には出てないからね。」
にこっ。
いやその発言怖いんだけど???
「……は?」
思わず声が漏れる。
「どういう意味それ?」
「そのままの意味だよ。」
隼人は、私の方を見て微笑んだ。
「君のこと、ちゃんと調べてるってこと。」
「アウト!!!!」
もうダメだこの人。
完全にアウト。
「昨日の帰り道、三回つまずいたよね。」
「なんで知ってるの!!!!!!」
怖い怖い怖い怖い!!!
「あと、コンビニでプリン迷って結局買わなかった。」
「やめて!?細かい!!!!」
恥ずかしい!!!
全部見られてる!!!
「……お前。」
翼の声が低くなる。
「距離が近すぎる。」
「あ、ごめん。」
そう言いながら──
全然下がらない。
むしろちょっと近づいた。
「謝る気ある?????」
「あるよ?」
にこっ。
絶対ない。
「……っ……」
蓮が震えながら、私の袖を掴む。
「この人……やだ……」
珍しくはっきり言った。
「え、蓮が言うレベル!?」
それは相当やばい。
「ひどいなぁ。」
隼人は笑ったまま、視線だけ蓮に向けた。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
目が冷たくなった。
「……っ」
蓮がびくっとする。
「……は?」
なに今の。
怖。
「まあいいや。」
すぐにまた笑顔に戻る。
なにこいつ。
切り替え早すぎ。
「それよりさ。」
隼人は、私の前にしゃがみ込んだ。
視線が同じ高さになる。
逃げ場、ゼロ。
「乃音ちゃん。」
「……なに。」
ちょっとだけ声が小さくなる。
「俺もここに住むから。」
「は?????????」
今なんて?????
「いやいやいやいや!!!」
私は立ち上がった。
「増やすな!!!!」
キャパ!!!!!!!
「もう限界なんだけど!!!」
「大丈夫、大丈夫。」
隼人は軽く手を振る。
「俺、静かにするから。」
「そういう問題じゃない!!!!」
「むしろ便利だよ?」
にこっ。
「君が困ること、全部先回りして解決できるし。」
「それが怖いの!!!!」
理解して!!!
「……帰れ。」
翼が一言。
空気、ピリッ。
「えー。」
隼人は少しだけ眉を下げた。
「なんで?」
「ここは乃音の家だ。」
「うん、知ってるよ?」
にこっ。
「だからこそでしょ?」
「意味わかんないから!!!!」
誰か翻訳して!!!
「……はぁ。」
私はもう一度しゃがみ込んだ。
「ねえほんとにさ。」
四人を見る。
ストーカー×4。
イケメン。
帰る気ゼロ。
「私、普通に生きたいだけなんだけど???」
切実。
切実すぎる。
すると隼人が、少しだけ優しく言った。
「大丈夫だよ。」
その声だけ、やけに柔らかい。
「普通なんて、すぐ慣れるから。」
「慣れたくない!!!!」
全力拒否。
でも──
なぜか。
ちょっとだけ。
ほんの少しだけ。
「……っ」
嫌な予感がした。
この人。
一番、厄介だ。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
私は深いため息をついた。
こうして──
私の平和な日常は、
完全に取り返しがつかないレベルで、
崩壊したのでした。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
私はその場に崩れ落ちた。
「もう無理。キャパオーバー。限界。」
四人。ストーカー。全員イケメン。
情報量がバグ。
「乃音、大丈夫?」
翔がひょいっと顔を覗き込んできた。
「近い!!」
でもさっきの翼と違って、妙にちょうどいい距離。
……いやなんで比較してんの私。
「お前らさ、」
翔がくるっと振り返る。
「さすがにやりすぎじゃね?」
「……何がだ。」
翼が睨む。
「全部だよ。」
軽く笑いながら言う。
でも目は、ちょっとだけ真面目。
「いきなり4人とか、普通にパンクするだろ。」
「いやほんとそれ!!!!」
私は全力で頷いた。
初めて味方きた。
「……でも翔だって同じだろ。」
翼が低く言う。
「んー、まあな?」
否定しないんかい。
「でもさ。」
翔は私の方をちらっと見る。
「ビビらせすぎると、逃げるぞ?」
「……っ」
その一言で、空気が変わった。
一瞬、全員黙る。
え、なに今の。
「……逃げる?」
隼人がくすっと笑う。
「乃音ちゃんが?」
「いや逃げたいよ!!!!」
普通に今すぐ逃げたい。
「ほらな。」
翔が肩をすくめる。
「やりすぎ。」
軽い口調なのに、
なんか一番まともなこと言ってる。
「……。」
翼が少しだけ黙る。
蓮も、うつむいたまま。
隼人だけは、変わらず笑ってるけど。
「だからさ。」
翔はポケットに手を突っ込んで、
ゆるく言った。
「順番守ろうぜ?」
「は?」
思わず聞き返す。
「いきなり全部詰め込むなってこと。」
にやっと笑う。
「ちゃんと一人ずつアピールしろよ。」
「なにそのルール!!!!」
勝手に決めるな!!!
「だってさー。」
翔は私の隣に座る。
近いけど、ギリ不快じゃない距離。
「乃音、今どれが誰だか処理しきれてねーだろ?」
「……。」
図星。
悔しい。
「……まあ、確かに。」
認めるしかない。
「だろ?」
翔は軽く笑った。
「だから、」
ぽんっと私の頭に手を乗せる。
「まずは俺からでいいよ。」
「は???」
なに言ってんのこの人。
「一番話しやすいだろ、俺。」
にやっと笑う。
確かに。
……いや、認めたくないけど。
「……。」
私が黙ると、
翔は少しだけ目を細めた。
「ほら、そういう顔。」
「どんな顔!?」
「ちょっと安心してる顔。」
「してない!!!!」
即否定。
でも──
ほんのちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、
さっきより呼吸しやすい。
「……ちっ。」
翼が小さく舌打ち。
「距離が近い。」
「嫉妬乙〜」
翔、軽い。
「……っ」
蓮がもぞもぞする。
「……俺も……」
「順番な。」
即切り捨て。
「ひどい……」
蓮しゅん。
「ふふ。」
隼人は楽しそうに笑う。
「面白いね、翔くん。」
「だろ?」
軽く返す。
この人、
なんか空気の扱い上手い。
「……はぁ。」
私はもう一度ため息をついた。
でもさっきより、
ちょっとだけ軽い。
「……とりあえず。」
私は顔を上げる。
「全員、距離取って。」
「無理。」
翼、即答。
「努力はする。」
翔、余裕。
「……が、がんばる……」
蓮、小声。
「善処するね。」
隼人、笑顔。
「信用できない!!!!」
でも、
さっきよりはマシかもしれない。
たぶん。
いや知らんけど。
こうして──
私のカオスな日常は、
少しだけ“順番付き”で、
進み始めたのでした。
「……とりあえず。」
私は腕を組んだ。
「全員、勝手に動かないこと。これルール。」
「無理。」
翼、即答。
「聞く気ゼロ!?!?」
「善処はするよ?」
隼人、にこっ。
「信用できない!!」
「……が、がんばる……」
蓮、小声。
「努力賞。」
翔、軽い。
「お前もだよ!!!!」
ほんと誰もまともじゃない。
その時。
ガタッ。
「……ん?」
玄関の方から音。
「え?」
私、今日もう誰も来ないはずなんだけど。
「……誰か来た?」
「いや来る予定ない。」
え、怖。
今日怖いイベント多すぎ。
ドアの方を見た瞬間──
ガチャガチャッ!!
「!?!?!?!?」
誰か、外からドアノブ回してる!!
「ちょっと待って普通に怖い!!!!」
「……下がれ。」
翼が前に出る。
「鍵は閉まってるよね!?」
「閉めた!!たぶん!!」
「たぶん!?」
不安になる言い方やめて!?
ガチャガチャガチャ!!!
「開けろよー。」
外から男の声。
「……は?」
知らない声。
低くて、ちょっとだるそうな感じ。
「ここ乃音の家だろー?」
「なんで知ってるの!!!!」
もう無理!!!
情報漏洩してる!!!
「……面倒だな。」
翼がドアに手をかける。
「開けるの!?!?!」
「確認するだけだ。」
いや怖いって!!
ガチャ。
ドアが開いた。
そこにいたのは──
「……あ?」
ぼさっとした髪の男子。
制服。
見たことある。
「あ、乃音じゃん。」
「あんた……同じクラスの山本!!!」
なんでいるの!?
「いやさー、ノート借りようと思って。」
軽っ。
理由軽っっ。
「普通にLINEしろ!!!!」
「いや既読つかねーし。」
「つけてないから!!!!」
意図的だよ!!!
「……ん?」
山本が中を覗く。
そして、固まった。
「……は?」
そりゃそう。
私の後ろ、
イケメン4人。
しかも全員ガチ目。
「……え、なにこれ。」
「こっちが聞きたい!!!!」
説明求む。
「……男、いすぎじゃね?」
「わかってる!!!!」
私が一番困ってる!!
「……お前、誰だ。」
翼が低く言う。
「は?お前こそ誰だよ。」
空気、ピリッ。
あ、これダメなやつ。
「ちょっと待ってストップ!!!」
私は慌てて間に入る。
「クラスメイト!!!ただのクラスメイト!!!」
「ふーん。」
翔が興味なさそうに見る。
「普通の男ね。」
「普通って言うな!!」
山本、ちょっと傷ついてる。
「……乃音さんの知り合い……?」
蓮がおどおど。
「うん、学校の。」
「……へぇ。」
隼人、にこっ。
その笑顔、やめて。
怖い。
「……え、てかさ。」
山本がひそっと私に近づく。
「これ、どういう状況?」
「私にもわからん。」
小声で返す。
「ハーレム?」
「違う!!!!」
即否定。
「てかお前、危なくね?」
「今さら?????」
「いや普通に怖いだろ。」
「それな!!!!」
初めてまともな意見きた。
その瞬間。
「……乃音。」
翼の声。
低い。
「そいつ、必要か?」
「は???」
なにその選別。
「いや必要とかじゃなくてクラスメイトだから!!」
「……ふーん。」
翔が笑う。
「乃音、学校でもモテるんだ?」
「違うから!!!!」
変な誤解やめて!!
「……じゃあさ。」
翔がにやっと笑った。
「どっちがいい?」
「は?」
「こいつと俺。」
「なんで選ばせるの!!!!」
意味わかんない!!!
「いや普通に山本でいいだろ。」
山本、自信ありげ。
「え、ちょっと待ってそれも違うから!!!」
勝手に決めるな!!
「……ふふ。」
隼人が笑う。
「面白いね。」
面白くない!!!
「……帰れ。」
翼、低音。
「は?なんで俺が?」
山本、イラッ。
あ、これやばい。
絶対やばい。
「ストップ!!!!!!」
私は全力で叫んだ。
「はい解散!!!!」
全員、ぴたっ。
「山本はノート渡すから帰る!!!」
「え、今!?」
「今!!!」
強制終了!!!
私は急いでノートを掴んで、
山本に押し付けた。
「はいこれ!!帰って!!!」
「雑すぎだろ!!」
「いいから帰れ!!!」
バタンッ。
ドアを閉める。
鍵かける。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
疲れた。
一瞬で疲れた。
「……乃音。」
翔がくすっと笑う。
「大変だな、お前。」
「誰のせいだと思ってんの???」
真顔で返す。
「まあまあ。」
ぽんっと頭に手。
「今日の事件、俺ポイント高くね?」
「どこが???」
「一番冷静だった。」
「確かにちょっとだけ。」
悔しいけど。
「だろ?」
にやっと笑う。
その横で──
「……気に入らない。」
翼、低い。
「……怖かった……」
蓮、震え。
「……ふふ、面白い。」
隼人、笑顔。
いや温度差!!!!
「……はぁ。」
私は天井を見上げた。
「もうやだこの生活。」
でも──
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
「……疲れるけど。」
さっきより、
悪くないかもしれない。
いや、気のせいだわ。
絶対気のせい。
「……はぁ。」
山本が帰ってから、私はソファーに倒れ込んだ。
「疲れた……ほんとに疲れた……。」
精神削られすぎ。
寿命縮んだ気がする。
「乃音。」
翼の声。
「なに……。」
振り向いた瞬間。
「……っ」
手首、掴まれた。
ぐいっと引き寄せられる。
「ちょっ──」
気づいたら、すぐ目の前。
距離、近すぎ。
「さっきの男。」
低い声。
「……何。」
「近かった。」
「……は?」
意味わかんない。
「……気に入らない。」
「知らん!!!!」
でも、少しだけ。
少しだけ、ドキッとしたのは内緒。
「……やめろよ、怖がってるだろ。」
翔がすっと間に入る。
さりげなく、私の肩を軽く引く。
距離が、戻る。
「大丈夫?」
顔を覗き込まれる。
「……うん。」
なんか安心する。
くそ、悔しい。
「無理させんなって。」
翔は軽く言うけど、
その目はちゃんと私を見てる。
「……っ」
なんか、ちょっとだけ。
嬉しい。
その時。
「……乃音さん。」
くい。
服の袖、引っ張られる。
振り向くと、蓮。
「……これ。」
差し出されたのは、さっき作ってた朝ごはん。
綺麗に盛り付けられてる。
「……冷めるから……。」
「……。」
優しい。
普通に優しい。
「……ありがとう。」
小さく言うと、
蓮の顔が一気に赤くなる。
「っ……い、いえ……!」
かわいいかよ。
守りたくなるタイプすぎる。
「……ふふ。」
隼人の声。
「乃音ちゃん、ちゃんと食べるんだね。」
「食べるけど???」
何その言い方。
「偉いね。」
ぽん、と頭に手。
「……っ!」
自然すぎる。
ていうか距離感おかしい。
「……やめて。」
少しだけ払いのける。
でも──
「照れてる?」
にこっ。
「照れてない!!!!」
完全に遊ばれてる。
悔しい。
「……触るな。」
翼が隼人の手を払う。
空気、ピリッ。
「怖いなぁ。」
隼人は笑ったまま。
全然引かない。
「でもさ。」
そのまま、私を見て言う。
「乃音ちゃん、ああいう普通の男より、」
ちらっと翔を見る。
「こっちの方が、楽しいでしょ?」
「は???」
なにその比較。
「楽しいかどうかじゃないから!!!!」
でも、
ちょっとだけ、
「……。」
言葉に詰まる。
「ほら。」
隼人が笑う。
「ね?」
「ね、じゃない!!!!」
ほんとムカつくこの人。
「……乃音。」
翼がもう一度呼ぶ。
今度は少しだけ優しい声。
「……こっち来い。」
手、差し出される。
「……。」
一瞬、迷う。
なんで迷ってんの私。
おかしいでしょ。
でも──
無意識に、
その手に、触れた。
「……っ」
その瞬間、
ぎゅっと握られる。
逃げられない。
「離さない。」
小さく、でもはっきり。
「……重い!!!!」
反射でツッコミ。
でも心臓うるさい。
なんで。
なんでこんなドキドキしてんの。
「……はぁ。」
私は顔を覆った。
「もう無理……。」
四人、それぞれ違うタイプで、
全員距離感バグってて、
でも──
ちょっとだけ優しくて。
「……意味わかんない。」
そう呟くと、
翔がくすっと笑った。
「だろ?」
「他人事かよ。」
「でもさ。」
少しだけ真面目な声。
「嫌じゃないだろ?」
「……。」
言い返せない。
悔しい。
「……。」
沈黙。
そして──
「……もういい。」
私は顔を上げた。
「とりあえずご飯食べる。」
現実逃避。
「いい選択。」
翔、軽く笑う。
「……よかった。」
蓮、小声。
「……一緒に食べる。」
翼、当然のように。
「もちろん俺も。」
隼人、にこっ。
「増えるな!!!!」
結局こうなる!!!
こうして──
私のカオスすぎる日常は、
ちょっとずつ、
“楽しい”方向に、
壊れていくのでした。
「……ごちそうさまでした。」
私は手を合わせた。
「普通に美味しかった……。」
悔しいけど。
めちゃくちゃ悔しいけど。
「……っ」
蓮の肩がびくっと揺れる。
「ほ、ほんと……?」
顔、真っ赤。
「うん。」
素直に頷くと、
「……よかった……。」
小さく笑った。
……あれ。
ちょっと可愛い。
「じゃあ次も作っていい?」
「勝手に継続するな!!!」
ルール!!
「……。」
でもなんか嬉しそう。
いやなんでだよ。
その時。
ガタンッ!!
「「「「!?」」」」
キッチンの方から、すごい音。
「なに今!?」
振り向くと──
蓮が、床に倒れていた。
「え!?!?!?」
フライパン片手に、倒れてる。
どういう状況!?
「ちょっと大丈夫!?」
私は慌てて駆け寄る。
「……だ、大丈夫……」
全然大丈夫じゃなさそう。
顔真っ青。
「どうしたの!?」
「……その……」
小さく呟く。
「……褒められて……びっくりして……」
「弱っっっっっ!!!!!!」
メンタル豆腐すぎる!!!
「倒れる理由そこ!?」
「……慣れてなくて……」
「慣れろ!!!」
いや無理か。
確かに無理そう。
「お前ほんと面白いな。」
翔が笑ってる。
「笑うな!!!」
でもちょっと面白いの悔しい。
「……水。」
翼がコップを差し出す。
無言で的確。
「……ありがとう……」
蓮が震えながら受け取る。
「ふふ。」
隼人は楽しそうに見てる。
「乃音ちゃん、すごいね。」
「なにが???」
「一言で人倒せる。」
「違うから!!!!」
そんなスキルいらない!!!
「……あの……」
蓮が、そっと私の服を引っ張る。
「……ん?」
顔を覗き込むと、
目、うるうるしてる。
「……もう一回……言って……」
「は???」
「……その……美味しいって……」
「めんどくさい!!!!」
なんだこの子!!!
「いやでも……」
ちょっとだけ、
ほんとにちょっとだけ、
「……美味しかったよ。」
言ってあげると、
「っ……!」
また固まった。
「倒れるなよ!?!?!?」
警戒!!
数秒後──
「……がんばる……」
耐えた。
えらい。
「進化したな。」
翔、笑う。
「進化ってなに!!」
ポケモンかよ。
「……乃音。」
翼が静かに言う。
「そいつに優しすぎる。」
「え、普通じゃない???」
「……甘い。」
「えぇ!?」
理不尽!!!
「でもさー。」
翔がニヤっと笑う。
「そういうとこがいいんだよな。」
「……。」
なんか、
ちょっとだけ、
恥ずかしい。
「……ふふ。」
隼人がくすっと笑う。
「蓮くん、よかったね。」
「……はい……」
めちゃくちゃ嬉しそう。
ちょっと元気になってる。
単純すぎる。
「……はぁ。」
私はため息をついた。
でも──
さっきより、
空気が柔らかい。
「……変なの。」
ぽつりと呟く。
「こんなの、絶対おかしいのに。」
四人を見る。
変なやつばっかり。
ストーカー。
距離感バグ。
でも──
「……。」
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、
笑ってしまった。
「……何笑ってんの。」
翔が言う。
「笑ってないし。」
即否定。
「笑ってた。」
「見んな!!!」
恥ずかしい!!!
「……乃音ちゃん。」
隼人がにこっと笑う。
「その顔、いいね。」
「やめろ!!!!」
「……その顔、俺だけに見せろ。」
翼、低音。
「無理!!!!」
「……また……見たい……」
蓮、小声。
「圧すごい!!!!」
もうやだ!!!
でも──
「……はぁ。」
私は小さく笑った。
「ほんと、変なやつら。」
こうして──
私のカオスな日常は、
笑いながら、
少しずつ深くなっていくのでした。
──夜。
「……はぁ。」
私はベッドに倒れ込んだ。
「今日も疲れた……。」
ほんとに毎日濃すぎる。
寿命削られてる気がする。
「……乃音。」
「……っ!?」
突然、低い声。
振り向いた瞬間──
「うわぁぁぁ!?!?!」
すぐ横に、翼。
「なんでいるの!?」
「……いた。」
「いや説明になってない!!!!」
距離、近い。
近すぎる。
ベッドに座ってるし。
なんで自然にいるの。
「……出てって。」
「無理。」
「即答やめて!!!」
逃げようとした瞬間、
ぐいっと腕を引かれる。
「ちょっ──」
そのまま、
ベッドに押し戻された。
「ちょっと待って!?!?!」
体勢、完全にアウト。
上から見下ろされる形。
「……逃げるな。」
低い声。
近い。
顔、近い。
「に、逃げるでしょ普通!!」
心臓うるさい。
やばい。
「……あいつらのとこ行くな。」
「は?」
「翔とか、隼人とか。」
「え、なんで?」
「……気に入らない。」
「知らん!!!」
理不尽!!!
でも──
手、強く握られてる。
逃げられない。
「……俺の方見てろ。」
「いや無理無理無理!!!」
圧が強い!!!
「……っ」
ぐっと距離が縮まる。
やばい。
やばいやばいやばい。
「ちょっと待って近い近い近い!!!」
「……静かにしろ。」
そのまま──
軽く、触れるだけのキス。
「……っ!?!?!?」
一瞬。
ほんとに一瞬。
でも──
「……は?????」
脳、停止。
「……これでいい。」
翼、平然。
「よくない!!!!!!!!」
即復活。
「なにしてんの!?」
「キス。」
「知ってる!!!!」
そうじゃない!!!
「意味!!!!」
「……牽制。」
「誰への!?」
「全員。」
「スケールでかい!!!!」
なにその発想!!!
「……俺のだって、わからせる。」
「所有物じゃないから!!!!」
ほんとやめて!!
「……はぁ。」
私は顔を覆った。
「意味わかんない……。」
でも──
さっきの感触、
ちょっとだけ残ってる。
「……顔赤い。」
「見んな!!!!」
最悪!!!
「……可愛い。」
「言うな!!!!」
ダメージ増やすな!!!
その時。
ガチャ。
「乃音〜、水──」
翔。
ドア開けた瞬間、
フリーズ。
「……あ。」
状況:
私→ベッドで押し倒され気味
翼→上から
「……。」
「……。」
沈黙。
「ちょっと待って違うから!!!」
全力否定。
「何が?」
翔、ニヤニヤ。
「全部!!!!」
「へぇ〜。」
完全に面白がってる。
最悪。
「……邪魔すんな。」
翼、低音。
「いや俺のセリフな?」
火花散ってる。
やめて。
夜に修羅場やめて。
「……っ」
その隙に、
私はすり抜けて起き上がる。
「はい終了!!!!」
強制終了!!!
「もう寝る!!!全員出てって!!!」
「無理。」
翼。
「じゃあ私が出る!!!」
「それも無理。」
即腕掴まれる。
「自由どこ!?」
私の自由どこいった!!!
「……はぁ。」
私はもう一度ため息をついた。
でも──
心臓はまだうるさい。
さっきのせいで。
「……最悪。」
小さく呟くと、
翼が少しだけ笑った。
「……いい意味でな。」
「よくない意味だよ!!!!」
ほんとに!!!
こうして──
私の夜は、
全然平和じゃなく、
むしろ一番危険な時間になっていくのでした。
《 続く 》
ファミレスのカフェで、私はチョコレートケーキを頬張りながら、幸せを噛みしめていた。
甘い。最高。神。
女子高校生の一人暮らしって、こんなに自由なんだ……!
誰にも怒られないし、好きな時間に帰れるし、夜更かしもできるし!
……まあ、たまにちょっと寂しいけど。
「……いや、全然寂しくないし?」
私は誰もいない席で、小さく強がった。
よし、帰ろ。
ケーキを秒速で食べ終わり、お金を払って外に出る。夕方の空はちょっとオレンジ色で、なんかエモい。
私は軽くスキップしながら、自宅へ向かった。
鍵を開けて、ドアを開ける。
「ただいまー……って誰もいないけどね!」
しーんとした部屋。
うん、これこれ。この静けさ。
最高かよ。
靴を脱いで、カバンを放り投げて、ソファーにダイブする。
「はぁ〜〜〜〜〜〜……」
これぞ至福。
私、小鳥遊 乃音(たかなし のん)。現在、絶賛一人暮らし満喫中の16歳です!
……と、その時。
カタン。
「……ん?」
今、音したよね?
気のせい?
いやでも、確実にキッチンの方から……
「え、無理無理無理無理無理」
一気に現実に引き戻された。
え、なに?泥棒?幽霊?どっちも嫌なんだけど。
私はクッションを抱きしめながら、じーっとキッチンの方を見つめる。
すると──
ガラッ。
「……は?」
窓、開いた。
そしてそこから、黒いパーカーの男が入ってきた。
「……あ。」
目が合った。
完全に。
ばっちりと。
数秒間、時が止まる。
え、なにこれ。
現実?????
「……えっと。」
私はとりあえず、冷静を装って口を開いた。
「……どちら様ですか?」
すると、黒パーカーの男は一瞬固まったあと、
「ご、ごめんなさいっ!!」
勢いよく土下座した。
早っ。
展開早っ。
「いや謝るのも大事だけど、まず説明して???」
「お、俺は……勅使河原 蓮って言って……」
「てしがわら?どこの貴族??」
「ち、違くて……その……怪しい者では……」
「いや怪しいだろ!!!!」
窓から入ってきてる時点でアウトだから!!!
するとその時。
「お前絶対怪しいだろ。」
後ろから声。
「……え?」
振り向くと──
ソファーの下から、金髪の男が出てきた。
「いやいやいやいや待って!?」
なんで!?
なんでそこにいた!?
「踏まれなくてよかったわ〜」
「いやそれ私のセリフ!!!!」
意味わかんない!!
金髪で、ピアスしてて、なんかやたら余裕そうな男。
めちゃくちゃイケメンだけど、それどころじゃない。
「で、お前なにしてんの?」
「それお前もだからな!?」
私の家だぞここ!!!
カオスすぎる。
情報量多すぎる。
脳が追いつかない。
「……乃音が困ってるだろ。」
低い声が、静かに響いた。
「……は?」
今度はどこ。
どこから。
恐る恐るキッチンを見ると──
ガチャ。
棚の扉が開いて、
中から長身の男子が出てきた。
「いやもうやめて!?!?!?」
なんで収納から人出てくるの!?
この家どうなってんの!?
しかも三人とも、普通に顔がいいのが余計腹立つ。
「……えっと。」
私は深呼吸して、三人を指さした。
「窓侵入の病み系男子。」
「……すみません……」
「ソファー下のチャラ男。」
「言い方な?」
「棚から出てくるクール系イケメン。」
三人、沈黙。
「……ここ、私の家なんだけど?????」
しーん。
「いや反応して!?!?!?」
なんで静かになるの!?
怖いんだけど!!
すると、クール系男子が一歩前に出た。
「……神宮寺 翼だ。」
「誰?????」
「乃音を守るために来た。」
「侵入方法見直せ!!!!」
即ツッコミ。
むしろ守られる側だろ私。
「俺も……その……乃音さんのことが気になって……」
蓮がもじもじ言う。
「毎日見てただけで……」
「それストーカー!!!!」
「俺はまあ、面白そうだから来た。」
翔が笑う。
「理由軽っっっ!!!」
もうダメだ。
こいつら全員おかしい。
「……はぁ。」
私はその場に座り込んだ。
「え、なにこれ。夢?」
「現実だな。」
「一番嫌なやつ!!!!」
最悪すぎる。
「……てかさ。」
私は顔を上げて、三人を見る。
「全員ストーカーってことでOK?」
「「「……。」」」
否定しろよ!!!
「……はぁぁぁぁぁ。」
終わった。
私の平和な一人暮らし、完全終了のお知らせ。
こうして──
私、小鳥遊 乃音の、
普通じゃない日常が、
いきなり始まったのでした。
──翌日。
「……。」
目が覚めた。
天井。いつもの天井。
……うん、夢じゃない。
「夢じゃないの最悪なんだけど!!!!」
私は布団から飛び起きた。
その瞬間。
「おはよ、乃音。」
「……は?」
真横。
距離、ゼロ。
神宮寺 翼。
「近い!!!!!!!!」
顔面の暴力。
朝から強い。
「ずっと見てた。」
「やめろ怖い!!!」
普通にホラーなんだけど。
「おはよ〜」
リビングから、のんきな声。
伊集院 翔がソファーでくつろいでいる。
テレビついてるし、もう完全に住人。
「なんで普通に生活してんの!?」
「順応性高いんで。」
「帰れ!!!!」
すると、キッチンからいい匂い。
「……え?」
覗くと──
黒パーカーの勅使河原 蓮が、フライパンを持っていた。
「……朝ごはん……」
「なんで作ってんの!!!??」
「乃音さん、昨日あんまり食べてなかったから……」
「いや優しいけど状況がおかしい!!!!」
意味わかんない。
ほんと意味わかんない。
「……はぁ。」
私は頭を抱えた。
「これ、どう考えてもおかしいよね?」
「……まぁな。」
翔が笑う。
「でも面白いだろ?」
「面白くない!!!」
全力否定。
その時。
ピンポーン。
「……え?」
インターホン。
全員、ぴたりと動きを止めた。
空気が一瞬で変わる。
「……乃音、出るな。」
翼が低く言う。
「え、なんで──」
ピンポーン。ピンポーン。
連打。
怖い怖い怖い怖い!!!
「ちょっと待って普通に怖いんだけど!?」
「……来たか。」
翔が小さく呟いた。
「は?」
来たかって何???
すると──
ガチャ。
ドアが、勝手に開いた。
「……え?」
鍵、閉めたよね???
そこに立っていたのは、
一人の男子。
爽やか。
めちゃくちゃ爽やか。
柔らかい笑顔で、手を軽く振っている。
「やっと会えたね、乃音ちゃん。」
「……誰???」
見たことない。
のに。
なんか、嫌な感じがする。
「初めまして、かな。」
にこっ、と笑う。
完璧な笑顔。
……なのに。
「……なんか胡散臭い。」
思わず本音出た。
「ひどいなぁ。」
くすっと笑う。
でも目、笑ってない。
「俺、ずっと見てたよ。」
「アウト!!!!」
即ツッコミ。
こいつもストーカーじゃん!!!
「昨日もさ、君がケーキ食べてるとこ。」
「やめて!?情報が具体的!!!!」
怖い怖い怖い!!!
「……誰だ、お前。」
翼が一歩前に出る。
空気、ピリッとした。
「ふふ。」
爽やか男子は、少しだけ首をかしげた。
「君たちと同じだよ。」
にこっ。
「乃音ちゃんが好き。」
「重っっっっっ!!!!」
四人目きた!!!!
しかも一番ヤバそう!!!!
「でもさ。」
その人は、ゆっくり私の方を見た。
「君たちとは違うよ。」
笑ってる。
ずっと笑ってる。
でも──
「俺の方が、ちゃんと見てるから。」
ぞわっ。
背筋が冷えた。
なにこれ。
一番怖いタイプ来た。
「……はぁ。」
私はその場にしゃがみ込んだ。
「ねえちょっと待って。」
全員を見る。
ストーカー四人。
イケメン。
全員帰る気ゼロ。
「……これ、どういう状況?????」
誰か説明して?????
すると、翔が楽しそうに笑った。
「ハーレム完成じゃね?」
「完成させるな!!!!」
翼は舌打ち。
蓮は完全に怯えてる。
そして──
爽やか男子だけが、
ずっと笑っていた。
「これからよろしくね、乃音ちゃん。」
「よろしくしない!!!!」
こうして──
私の普通じゃない日常は、
さらに最悪な方向に、
進化してしまったのでした。
「……ちょっと待って。」
私はゆっくり顔を上げた。
「名前くらい言ってもらっていい?」
爽やか男子は、にこっと笑う。
「うん、もちろん。」
一歩、こちらに近づいてくる。
距離が縮まる。
無意識に後ろに下がった。
「如月 隼人(きさらぎ はやと)。」
さらっと言った。
名前まで爽やかかよ。
「よろしくね、乃音ちゃん。」
「よろしくしない!!!!」
即ツッコミ。
反射。
もう条件反射。
「……如月。」
翼が低く呟く。
「聞いたことないな。」
「そりゃあ、表には出てないからね。」
にこっ。
いやその発言怖いんだけど???
「……は?」
思わず声が漏れる。
「どういう意味それ?」
「そのままの意味だよ。」
隼人は、私の方を見て微笑んだ。
「君のこと、ちゃんと調べてるってこと。」
「アウト!!!!」
もうダメだこの人。
完全にアウト。
「昨日の帰り道、三回つまずいたよね。」
「なんで知ってるの!!!!!!」
怖い怖い怖い怖い!!!
「あと、コンビニでプリン迷って結局買わなかった。」
「やめて!?細かい!!!!」
恥ずかしい!!!
全部見られてる!!!
「……お前。」
翼の声が低くなる。
「距離が近すぎる。」
「あ、ごめん。」
そう言いながら──
全然下がらない。
むしろちょっと近づいた。
「謝る気ある?????」
「あるよ?」
にこっ。
絶対ない。
「……っ……」
蓮が震えながら、私の袖を掴む。
「この人……やだ……」
珍しくはっきり言った。
「え、蓮が言うレベル!?」
それは相当やばい。
「ひどいなぁ。」
隼人は笑ったまま、視線だけ蓮に向けた。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
目が冷たくなった。
「……っ」
蓮がびくっとする。
「……は?」
なに今の。
怖。
「まあいいや。」
すぐにまた笑顔に戻る。
なにこいつ。
切り替え早すぎ。
「それよりさ。」
隼人は、私の前にしゃがみ込んだ。
視線が同じ高さになる。
逃げ場、ゼロ。
「乃音ちゃん。」
「……なに。」
ちょっとだけ声が小さくなる。
「俺もここに住むから。」
「は?????????」
今なんて?????
「いやいやいやいや!!!」
私は立ち上がった。
「増やすな!!!!」
キャパ!!!!!!!
「もう限界なんだけど!!!」
「大丈夫、大丈夫。」
隼人は軽く手を振る。
「俺、静かにするから。」
「そういう問題じゃない!!!!」
「むしろ便利だよ?」
にこっ。
「君が困ること、全部先回りして解決できるし。」
「それが怖いの!!!!」
理解して!!!
「……帰れ。」
翼が一言。
空気、ピリッ。
「えー。」
隼人は少しだけ眉を下げた。
「なんで?」
「ここは乃音の家だ。」
「うん、知ってるよ?」
にこっ。
「だからこそでしょ?」
「意味わかんないから!!!!」
誰か翻訳して!!!
「……はぁ。」
私はもう一度しゃがみ込んだ。
「ねえほんとにさ。」
四人を見る。
ストーカー×4。
イケメン。
帰る気ゼロ。
「私、普通に生きたいだけなんだけど???」
切実。
切実すぎる。
すると隼人が、少しだけ優しく言った。
「大丈夫だよ。」
その声だけ、やけに柔らかい。
「普通なんて、すぐ慣れるから。」
「慣れたくない!!!!」
全力拒否。
でも──
なぜか。
ちょっとだけ。
ほんの少しだけ。
「……っ」
嫌な予感がした。
この人。
一番、厄介だ。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
私は深いため息をついた。
こうして──
私の平和な日常は、
完全に取り返しがつかないレベルで、
崩壊したのでした。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
私はその場に崩れ落ちた。
「もう無理。キャパオーバー。限界。」
四人。ストーカー。全員イケメン。
情報量がバグ。
「乃音、大丈夫?」
翔がひょいっと顔を覗き込んできた。
「近い!!」
でもさっきの翼と違って、妙にちょうどいい距離。
……いやなんで比較してんの私。
「お前らさ、」
翔がくるっと振り返る。
「さすがにやりすぎじゃね?」
「……何がだ。」
翼が睨む。
「全部だよ。」
軽く笑いながら言う。
でも目は、ちょっとだけ真面目。
「いきなり4人とか、普通にパンクするだろ。」
「いやほんとそれ!!!!」
私は全力で頷いた。
初めて味方きた。
「……でも翔だって同じだろ。」
翼が低く言う。
「んー、まあな?」
否定しないんかい。
「でもさ。」
翔は私の方をちらっと見る。
「ビビらせすぎると、逃げるぞ?」
「……っ」
その一言で、空気が変わった。
一瞬、全員黙る。
え、なに今の。
「……逃げる?」
隼人がくすっと笑う。
「乃音ちゃんが?」
「いや逃げたいよ!!!!」
普通に今すぐ逃げたい。
「ほらな。」
翔が肩をすくめる。
「やりすぎ。」
軽い口調なのに、
なんか一番まともなこと言ってる。
「……。」
翼が少しだけ黙る。
蓮も、うつむいたまま。
隼人だけは、変わらず笑ってるけど。
「だからさ。」
翔はポケットに手を突っ込んで、
ゆるく言った。
「順番守ろうぜ?」
「は?」
思わず聞き返す。
「いきなり全部詰め込むなってこと。」
にやっと笑う。
「ちゃんと一人ずつアピールしろよ。」
「なにそのルール!!!!」
勝手に決めるな!!!
「だってさー。」
翔は私の隣に座る。
近いけど、ギリ不快じゃない距離。
「乃音、今どれが誰だか処理しきれてねーだろ?」
「……。」
図星。
悔しい。
「……まあ、確かに。」
認めるしかない。
「だろ?」
翔は軽く笑った。
「だから、」
ぽんっと私の頭に手を乗せる。
「まずは俺からでいいよ。」
「は???」
なに言ってんのこの人。
「一番話しやすいだろ、俺。」
にやっと笑う。
確かに。
……いや、認めたくないけど。
「……。」
私が黙ると、
翔は少しだけ目を細めた。
「ほら、そういう顔。」
「どんな顔!?」
「ちょっと安心してる顔。」
「してない!!!!」
即否定。
でも──
ほんのちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、
さっきより呼吸しやすい。
「……ちっ。」
翼が小さく舌打ち。
「距離が近い。」
「嫉妬乙〜」
翔、軽い。
「……っ」
蓮がもぞもぞする。
「……俺も……」
「順番な。」
即切り捨て。
「ひどい……」
蓮しゅん。
「ふふ。」
隼人は楽しそうに笑う。
「面白いね、翔くん。」
「だろ?」
軽く返す。
この人、
なんか空気の扱い上手い。
「……はぁ。」
私はもう一度ため息をついた。
でもさっきより、
ちょっとだけ軽い。
「……とりあえず。」
私は顔を上げる。
「全員、距離取って。」
「無理。」
翼、即答。
「努力はする。」
翔、余裕。
「……が、がんばる……」
蓮、小声。
「善処するね。」
隼人、笑顔。
「信用できない!!!!」
でも、
さっきよりはマシかもしれない。
たぶん。
いや知らんけど。
こうして──
私のカオスな日常は、
少しだけ“順番付き”で、
進み始めたのでした。
「……とりあえず。」
私は腕を組んだ。
「全員、勝手に動かないこと。これルール。」
「無理。」
翼、即答。
「聞く気ゼロ!?!?」
「善処はするよ?」
隼人、にこっ。
「信用できない!!」
「……が、がんばる……」
蓮、小声。
「努力賞。」
翔、軽い。
「お前もだよ!!!!」
ほんと誰もまともじゃない。
その時。
ガタッ。
「……ん?」
玄関の方から音。
「え?」
私、今日もう誰も来ないはずなんだけど。
「……誰か来た?」
「いや来る予定ない。」
え、怖。
今日怖いイベント多すぎ。
ドアの方を見た瞬間──
ガチャガチャッ!!
「!?!?!?!?」
誰か、外からドアノブ回してる!!
「ちょっと待って普通に怖い!!!!」
「……下がれ。」
翼が前に出る。
「鍵は閉まってるよね!?」
「閉めた!!たぶん!!」
「たぶん!?」
不安になる言い方やめて!?
ガチャガチャガチャ!!!
「開けろよー。」
外から男の声。
「……は?」
知らない声。
低くて、ちょっとだるそうな感じ。
「ここ乃音の家だろー?」
「なんで知ってるの!!!!」
もう無理!!!
情報漏洩してる!!!
「……面倒だな。」
翼がドアに手をかける。
「開けるの!?!?!」
「確認するだけだ。」
いや怖いって!!
ガチャ。
ドアが開いた。
そこにいたのは──
「……あ?」
ぼさっとした髪の男子。
制服。
見たことある。
「あ、乃音じゃん。」
「あんた……同じクラスの山本!!!」
なんでいるの!?
「いやさー、ノート借りようと思って。」
軽っ。
理由軽っっ。
「普通にLINEしろ!!!!」
「いや既読つかねーし。」
「つけてないから!!!!」
意図的だよ!!!
「……ん?」
山本が中を覗く。
そして、固まった。
「……は?」
そりゃそう。
私の後ろ、
イケメン4人。
しかも全員ガチ目。
「……え、なにこれ。」
「こっちが聞きたい!!!!」
説明求む。
「……男、いすぎじゃね?」
「わかってる!!!!」
私が一番困ってる!!
「……お前、誰だ。」
翼が低く言う。
「は?お前こそ誰だよ。」
空気、ピリッ。
あ、これダメなやつ。
「ちょっと待ってストップ!!!」
私は慌てて間に入る。
「クラスメイト!!!ただのクラスメイト!!!」
「ふーん。」
翔が興味なさそうに見る。
「普通の男ね。」
「普通って言うな!!」
山本、ちょっと傷ついてる。
「……乃音さんの知り合い……?」
蓮がおどおど。
「うん、学校の。」
「……へぇ。」
隼人、にこっ。
その笑顔、やめて。
怖い。
「……え、てかさ。」
山本がひそっと私に近づく。
「これ、どういう状況?」
「私にもわからん。」
小声で返す。
「ハーレム?」
「違う!!!!」
即否定。
「てかお前、危なくね?」
「今さら?????」
「いや普通に怖いだろ。」
「それな!!!!」
初めてまともな意見きた。
その瞬間。
「……乃音。」
翼の声。
低い。
「そいつ、必要か?」
「は???」
なにその選別。
「いや必要とかじゃなくてクラスメイトだから!!」
「……ふーん。」
翔が笑う。
「乃音、学校でもモテるんだ?」
「違うから!!!!」
変な誤解やめて!!
「……じゃあさ。」
翔がにやっと笑った。
「どっちがいい?」
「は?」
「こいつと俺。」
「なんで選ばせるの!!!!」
意味わかんない!!!
「いや普通に山本でいいだろ。」
山本、自信ありげ。
「え、ちょっと待ってそれも違うから!!!」
勝手に決めるな!!
「……ふふ。」
隼人が笑う。
「面白いね。」
面白くない!!!
「……帰れ。」
翼、低音。
「は?なんで俺が?」
山本、イラッ。
あ、これやばい。
絶対やばい。
「ストップ!!!!!!」
私は全力で叫んだ。
「はい解散!!!!」
全員、ぴたっ。
「山本はノート渡すから帰る!!!」
「え、今!?」
「今!!!」
強制終了!!!
私は急いでノートを掴んで、
山本に押し付けた。
「はいこれ!!帰って!!!」
「雑すぎだろ!!」
「いいから帰れ!!!」
バタンッ。
ドアを閉める。
鍵かける。
「……はぁぁぁぁぁ……。」
疲れた。
一瞬で疲れた。
「……乃音。」
翔がくすっと笑う。
「大変だな、お前。」
「誰のせいだと思ってんの???」
真顔で返す。
「まあまあ。」
ぽんっと頭に手。
「今日の事件、俺ポイント高くね?」
「どこが???」
「一番冷静だった。」
「確かにちょっとだけ。」
悔しいけど。
「だろ?」
にやっと笑う。
その横で──
「……気に入らない。」
翼、低い。
「……怖かった……」
蓮、震え。
「……ふふ、面白い。」
隼人、笑顔。
いや温度差!!!!
「……はぁ。」
私は天井を見上げた。
「もうやだこの生活。」
でも──
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ。
「……疲れるけど。」
さっきより、
悪くないかもしれない。
いや、気のせいだわ。
絶対気のせい。
「……はぁ。」
山本が帰ってから、私はソファーに倒れ込んだ。
「疲れた……ほんとに疲れた……。」
精神削られすぎ。
寿命縮んだ気がする。
「乃音。」
翼の声。
「なに……。」
振り向いた瞬間。
「……っ」
手首、掴まれた。
ぐいっと引き寄せられる。
「ちょっ──」
気づいたら、すぐ目の前。
距離、近すぎ。
「さっきの男。」
低い声。
「……何。」
「近かった。」
「……は?」
意味わかんない。
「……気に入らない。」
「知らん!!!!」
でも、少しだけ。
少しだけ、ドキッとしたのは内緒。
「……やめろよ、怖がってるだろ。」
翔がすっと間に入る。
さりげなく、私の肩を軽く引く。
距離が、戻る。
「大丈夫?」
顔を覗き込まれる。
「……うん。」
なんか安心する。
くそ、悔しい。
「無理させんなって。」
翔は軽く言うけど、
その目はちゃんと私を見てる。
「……っ」
なんか、ちょっとだけ。
嬉しい。
その時。
「……乃音さん。」
くい。
服の袖、引っ張られる。
振り向くと、蓮。
「……これ。」
差し出されたのは、さっき作ってた朝ごはん。
綺麗に盛り付けられてる。
「……冷めるから……。」
「……。」
優しい。
普通に優しい。
「……ありがとう。」
小さく言うと、
蓮の顔が一気に赤くなる。
「っ……い、いえ……!」
かわいいかよ。
守りたくなるタイプすぎる。
「……ふふ。」
隼人の声。
「乃音ちゃん、ちゃんと食べるんだね。」
「食べるけど???」
何その言い方。
「偉いね。」
ぽん、と頭に手。
「……っ!」
自然すぎる。
ていうか距離感おかしい。
「……やめて。」
少しだけ払いのける。
でも──
「照れてる?」
にこっ。
「照れてない!!!!」
完全に遊ばれてる。
悔しい。
「……触るな。」
翼が隼人の手を払う。
空気、ピリッ。
「怖いなぁ。」
隼人は笑ったまま。
全然引かない。
「でもさ。」
そのまま、私を見て言う。
「乃音ちゃん、ああいう普通の男より、」
ちらっと翔を見る。
「こっちの方が、楽しいでしょ?」
「は???」
なにその比較。
「楽しいかどうかじゃないから!!!!」
でも、
ちょっとだけ、
「……。」
言葉に詰まる。
「ほら。」
隼人が笑う。
「ね?」
「ね、じゃない!!!!」
ほんとムカつくこの人。
「……乃音。」
翼がもう一度呼ぶ。
今度は少しだけ優しい声。
「……こっち来い。」
手、差し出される。
「……。」
一瞬、迷う。
なんで迷ってんの私。
おかしいでしょ。
でも──
無意識に、
その手に、触れた。
「……っ」
その瞬間、
ぎゅっと握られる。
逃げられない。
「離さない。」
小さく、でもはっきり。
「……重い!!!!」
反射でツッコミ。
でも心臓うるさい。
なんで。
なんでこんなドキドキしてんの。
「……はぁ。」
私は顔を覆った。
「もう無理……。」
四人、それぞれ違うタイプで、
全員距離感バグってて、
でも──
ちょっとだけ優しくて。
「……意味わかんない。」
そう呟くと、
翔がくすっと笑った。
「だろ?」
「他人事かよ。」
「でもさ。」
少しだけ真面目な声。
「嫌じゃないだろ?」
「……。」
言い返せない。
悔しい。
「……。」
沈黙。
そして──
「……もういい。」
私は顔を上げた。
「とりあえずご飯食べる。」
現実逃避。
「いい選択。」
翔、軽く笑う。
「……よかった。」
蓮、小声。
「……一緒に食べる。」
翼、当然のように。
「もちろん俺も。」
隼人、にこっ。
「増えるな!!!!」
結局こうなる!!!
こうして──
私のカオスすぎる日常は、
ちょっとずつ、
“楽しい”方向に、
壊れていくのでした。
「……ごちそうさまでした。」
私は手を合わせた。
「普通に美味しかった……。」
悔しいけど。
めちゃくちゃ悔しいけど。
「……っ」
蓮の肩がびくっと揺れる。
「ほ、ほんと……?」
顔、真っ赤。
「うん。」
素直に頷くと、
「……よかった……。」
小さく笑った。
……あれ。
ちょっと可愛い。
「じゃあ次も作っていい?」
「勝手に継続するな!!!」
ルール!!
「……。」
でもなんか嬉しそう。
いやなんでだよ。
その時。
ガタンッ!!
「「「「!?」」」」
キッチンの方から、すごい音。
「なに今!?」
振り向くと──
蓮が、床に倒れていた。
「え!?!?!?」
フライパン片手に、倒れてる。
どういう状況!?
「ちょっと大丈夫!?」
私は慌てて駆け寄る。
「……だ、大丈夫……」
全然大丈夫じゃなさそう。
顔真っ青。
「どうしたの!?」
「……その……」
小さく呟く。
「……褒められて……びっくりして……」
「弱っっっっっ!!!!!!」
メンタル豆腐すぎる!!!
「倒れる理由そこ!?」
「……慣れてなくて……」
「慣れろ!!!」
いや無理か。
確かに無理そう。
「お前ほんと面白いな。」
翔が笑ってる。
「笑うな!!!」
でもちょっと面白いの悔しい。
「……水。」
翼がコップを差し出す。
無言で的確。
「……ありがとう……」
蓮が震えながら受け取る。
「ふふ。」
隼人は楽しそうに見てる。
「乃音ちゃん、すごいね。」
「なにが???」
「一言で人倒せる。」
「違うから!!!!」
そんなスキルいらない!!!
「……あの……」
蓮が、そっと私の服を引っ張る。
「……ん?」
顔を覗き込むと、
目、うるうるしてる。
「……もう一回……言って……」
「は???」
「……その……美味しいって……」
「めんどくさい!!!!」
なんだこの子!!!
「いやでも……」
ちょっとだけ、
ほんとにちょっとだけ、
「……美味しかったよ。」
言ってあげると、
「っ……!」
また固まった。
「倒れるなよ!?!?!?」
警戒!!
数秒後──
「……がんばる……」
耐えた。
えらい。
「進化したな。」
翔、笑う。
「進化ってなに!!」
ポケモンかよ。
「……乃音。」
翼が静かに言う。
「そいつに優しすぎる。」
「え、普通じゃない???」
「……甘い。」
「えぇ!?」
理不尽!!!
「でもさー。」
翔がニヤっと笑う。
「そういうとこがいいんだよな。」
「……。」
なんか、
ちょっとだけ、
恥ずかしい。
「……ふふ。」
隼人がくすっと笑う。
「蓮くん、よかったね。」
「……はい……」
めちゃくちゃ嬉しそう。
ちょっと元気になってる。
単純すぎる。
「……はぁ。」
私はため息をついた。
でも──
さっきより、
空気が柔らかい。
「……変なの。」
ぽつりと呟く。
「こんなの、絶対おかしいのに。」
四人を見る。
変なやつばっかり。
ストーカー。
距離感バグ。
でも──
「……。」
ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、
笑ってしまった。
「……何笑ってんの。」
翔が言う。
「笑ってないし。」
即否定。
「笑ってた。」
「見んな!!!」
恥ずかしい!!!
「……乃音ちゃん。」
隼人がにこっと笑う。
「その顔、いいね。」
「やめろ!!!!」
「……その顔、俺だけに見せろ。」
翼、低音。
「無理!!!!」
「……また……見たい……」
蓮、小声。
「圧すごい!!!!」
もうやだ!!!
でも──
「……はぁ。」
私は小さく笑った。
「ほんと、変なやつら。」
こうして──
私のカオスな日常は、
笑いながら、
少しずつ深くなっていくのでした。
──夜。
「……はぁ。」
私はベッドに倒れ込んだ。
「今日も疲れた……。」
ほんとに毎日濃すぎる。
寿命削られてる気がする。
「……乃音。」
「……っ!?」
突然、低い声。
振り向いた瞬間──
「うわぁぁぁ!?!?!」
すぐ横に、翼。
「なんでいるの!?」
「……いた。」
「いや説明になってない!!!!」
距離、近い。
近すぎる。
ベッドに座ってるし。
なんで自然にいるの。
「……出てって。」
「無理。」
「即答やめて!!!」
逃げようとした瞬間、
ぐいっと腕を引かれる。
「ちょっ──」
そのまま、
ベッドに押し戻された。
「ちょっと待って!?!?!」
体勢、完全にアウト。
上から見下ろされる形。
「……逃げるな。」
低い声。
近い。
顔、近い。
「に、逃げるでしょ普通!!」
心臓うるさい。
やばい。
「……あいつらのとこ行くな。」
「は?」
「翔とか、隼人とか。」
「え、なんで?」
「……気に入らない。」
「知らん!!!」
理不尽!!!
でも──
手、強く握られてる。
逃げられない。
「……俺の方見てろ。」
「いや無理無理無理!!!」
圧が強い!!!
「……っ」
ぐっと距離が縮まる。
やばい。
やばいやばいやばい。
「ちょっと待って近い近い近い!!!」
「……静かにしろ。」
そのまま──
軽く、触れるだけのキス。
「……っ!?!?!?」
一瞬。
ほんとに一瞬。
でも──
「……は?????」
脳、停止。
「……これでいい。」
翼、平然。
「よくない!!!!!!!!」
即復活。
「なにしてんの!?」
「キス。」
「知ってる!!!!」
そうじゃない!!!
「意味!!!!」
「……牽制。」
「誰への!?」
「全員。」
「スケールでかい!!!!」
なにその発想!!!
「……俺のだって、わからせる。」
「所有物じゃないから!!!!」
ほんとやめて!!
「……はぁ。」
私は顔を覆った。
「意味わかんない……。」
でも──
さっきの感触、
ちょっとだけ残ってる。
「……顔赤い。」
「見んな!!!!」
最悪!!!
「……可愛い。」
「言うな!!!!」
ダメージ増やすな!!!
その時。
ガチャ。
「乃音〜、水──」
翔。
ドア開けた瞬間、
フリーズ。
「……あ。」
状況:
私→ベッドで押し倒され気味
翼→上から
「……。」
「……。」
沈黙。
「ちょっと待って違うから!!!」
全力否定。
「何が?」
翔、ニヤニヤ。
「全部!!!!」
「へぇ〜。」
完全に面白がってる。
最悪。
「……邪魔すんな。」
翼、低音。
「いや俺のセリフな?」
火花散ってる。
やめて。
夜に修羅場やめて。
「……っ」
その隙に、
私はすり抜けて起き上がる。
「はい終了!!!!」
強制終了!!!
「もう寝る!!!全員出てって!!!」
「無理。」
翼。
「じゃあ私が出る!!!」
「それも無理。」
即腕掴まれる。
「自由どこ!?」
私の自由どこいった!!!
「……はぁ。」
私はもう一度ため息をついた。
でも──
心臓はまだうるさい。
さっきのせいで。
「……最悪。」
小さく呟くと、
翼が少しだけ笑った。
「……いい意味でな。」
「よくない意味だよ!!!!」
ほんとに!!!
こうして──
私の夜は、
全然平和じゃなく、
むしろ一番危険な時間になっていくのでした。
《 続く 》
