恋愛百景

第3章 あの夏

第1話「あの夏のはじまり」

夏休みが近づく教室は、どこかそわそわした空気で満ちていた。
窓の外から差し込む日差しが、机の上の教科書を白く照らしている。

(もうすぐ夏休みか……)

特別な予定なんてないはずなのに、胸の奥が少しだけ浮き立つ。

「ねえ、誕生日のプレゼント、何が欲しい?」

隣から聞こえた彼の声に、私は思わず顔を赤くして俯いた。

「え、そ、それは……考えてなかった……」

うまく言葉が出ない。
視線も合わせられない。

でも彼は、そんな私をからかうこともなく、ただ優しく笑った。

「そっか。じゃあ、俺が選ぶ」

そう言って、そっと私の手を握る。

(近い……)

心臓がうるさいくらいに鳴っている。
逃げたいのに、離したくないと思ってしまう。

放課後、彼は小さな箱を差し出した。

「誕生日、少し早いけど……これ、君に」

恐る恐る開けると、中にはクマのぬいぐるみが入っていた。

柔らかそうな毛並み。
小さく笑っているような顔。

「かわいい……!」

思わず抱きしめる。

すると彼は、少しだけ照れたように笑った。

「これからも、ずっと一緒だよ」

その言葉が、胸の奥に静かに染み込んでいく。

(この時間が、ずっと続けばいいのに)

そう思った。

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